「さくらと小狼の初デート」
(Original Title:DATE THE BOY, KISS THE GIRL)


出典:MEE-NA's Page
(http://www.geocities.com/passto2001/Main.html)

作者:MEE-NA(タイ王国)
訳者:alpha7

劇中挿入歌:Kiss The Girl
作曲:Alan Menken
作詞:Howard Ashman
演奏:Samuel E. Wright

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このFanficにおいての出来事は「CCさくら」の原作マンガを題材にしています。
アニメ版及び劇場版アニメとは一切関係ありません。

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土曜日の夜、友枝町には青く暗い夜のとまりがおり、空には星が輝いていた。
木之本家では大道寺知世が木之本さくらの前に座り、その目を輝かせいた。
知世はさくらの前に座って見つめ、淡いピンク色のワンピースを着せていたの
だった。

「さくらちゃん、とっても可愛いですわ!」
知世は陽気な声で高らかに叫んだのであった。

「あ....ありがとう、知世ちゃん」
さくらは赤面しながら柔らかい口調で答えた。
クロウカードを捕らえ始めた頃から、知世はさくらの衣装をデザインする事を
買って出ていた。
そして、あれから7年を経て、17歳となった今でも、その姿勢は変わる事が無
かった。
一方、さくらの方も、知世のデザインした衣装を着る事に愛着を感じていたの
である。

「李君との初デートのお洋服をデザイン出来るなんて、とっても幸せですわ!
李君、さくらちゃんとキスしたら、死んでしまうと思いますわ!」
知世はそう言うと、お決まりの「白昼夢モード」に入り、さくらに魅力的な笑
いを投げかけたのである。そして、知世の言葉は更に続いた。
「この場面を録画するテープも忘れてはいませんのよ。タイトルは『さくら
ちゃん、李君と初デート』。ああっ、なんて幸せ!」

「と....と、知世ちゃん」
さくらは益々赤面していった。

「何や、さくら、何でそんなに赤くなっとるねん?大丈夫かいな?」
ベッドの上に座っていたケロが、赤面したさくらの顔を見つめて尋ねた。

知世は優雅な笑いを浮かべ、ケロに向かって答えたのだった。
「さくらちゃん、シャイなんですのよ。」

「シャイ?何でや?」

「どうしてかって言うと、さくらちゃん、李君と明日キスする事になるから、
赤くなってる、って事ですのよ。」知世はケロに向かって答えた。

「キスやて?あの小僧にさくらの唇が奪われるのに、赤くなっとるのかい?」
ケロの方も知世に向かって答えた。

「ケロちゃん!」
赤面したさくらはそう叫ぶと、ケロをつかみ、自分の枕に叩きつけた。

「ああっ、な....何やねん?」
ケロは叩きつけられた理由を、さくらに聞こうとしたが、さくらの方は混乱し
ている様だった。知世の方は、このやり取りを見てクスクスと笑っていた。

さくらはこれまでデートした事が無かった。
日曜日にボーイフレンドの李小狼がデートしよう、と申し込んできた。
無論、小狼が日本に戻って来て以来、彼ら2人にとって始めてのデートだった。
と言うよりも、2人にとって正真正銘の初デートだったのである。
そんな事もあり、知世は2人の初デートの手助けをする為、助っ人をかって出
たのだった。

「さくらちゃん、お休みになる時間ですわよ。」
知世がさくらに言った。
「明日は早起きしなければなりませんでしょ?」

「うん」
さくらは頷いた。
寝る準備をしながら、さくらは言った。
「おやすみ、知世ちゃん、ケロちゃん。」
そう言うと、部屋の明かりを落としたのだった。

「おやすみなさい。さくらちゃん、ケロちゃん」
知世もそう答え、さくらのベッドにもぐり込んだのだった。

「おやすみ〜。」
ケロも答える。そして、さくらの枕に横になったのだった。

3人は暗い部屋の中で横になった。
さくらは知世とケロが眠りに落ちた事が分かったが、1人さくらだけは眠りに
つく事が出来なかった。
彼女の顔は真っ赤になったままであり、心臓はドキドキしたままであったから
である。

『李君、さくらちゃんとキスしたら、死んでしまうと思いますわ!』
知世が言った言葉がさくらの頭の中でこだましていた。
と言うのも、さくらの頭の右側に知世の下唇が当たっていたからだ。

<ほえええ!>
さくらは2人に聞こえないように叫んだ。
そして、自分が考えている事を忘れようとしたのだった。
<私、何考えてるんだろ?そんな事出来る訳ないじゃない!初デートなんだも
ん....つまり、つまり、始めてなのよ!>
さくらは寝返りをうち、自分の考えを忘れようと必死だった。

だが、例えそうしたとしても、次々に別の考えが浮かんできたのだった。

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翌日の日曜日、万人にとって良い日となった。
無論、デートをするにも完璧な日であった。

若者の名は李小狼。
ライトな緑のシャツとブルーのジーンズで身を固め、木之本家の前に立っていた。
彼は幼い時、木之本家を訪れた事があったが、今日は何故か落ち着かなかった。
だが、落ち着かなくても、彼は楽しいかった。
何故なら、今日はさくらとの初デートだったからであろうが。

小狼はそんな考えを浮かべて赤面した。
彼は、木之本家の玄関に走り、呼び鈴を押した。
「ピンポン」、呼び鈴の音が木之本家じゅうに響き渡った。

「はい?」
ドアの反対側から声が響いた。

小狼はその声に聞き覚えがあった。
その声は彼が初めて日本に来て以来の宿敵の声であったからだ。

男性が玄関のドアを開けた。
その男性は小狼よりも、遥かに背が高かった。
黒髪と黒い瞳の男性は木之本桃矢だった。
桃矢は小狼をギラリとした目つきで見つめた。

桃矢と小狼は、睨み合いながらも朝の挨拶を交わそうとした。
だが、桃矢の方が先に口を開いたのだった。
「何か用か?」
桃矢はぶっきらぼうに尋ねた。

「俺にはさくらとの約束があるんだ。」
小狼は桃矢よりも、遥かにぶっきらぼうな口調で答えた。

突然、桃矢の血管は顔の表面に浮かび上がってきた。
「ほう、さくらからか?」
桃矢は敵意丸出しな口調で尋ねた。

「そうだ。」
小狼は桃矢よりは落ち着いた口調で答える。

小狼と桃矢は鋭い目つきで見つめ合っていた。
桃矢は、この小僧が自分の妹に呼び出した、と言う事を認めたくなかった。
一方の小狼の方もさくらに呼び出された、と言う事を譲る事は出来なかった。

すると、さくらが急いで階段を下りてきた。
さくらは、小狼が呼び鈴を鳴らした時にも、出かける準備が出来ていなかった。
呼び鈴を聞き、さくらは小狼が来たと思ったのだった。
そして、知世の助けも有り、急いで服を着ると、走って部屋を出て、小狼に会
う為、階段を下りてきたのである。

「小狼君?」
さくらは試しに小狼の名を呼んでみた。
彼女は来客が小狼であると、確信が持てなかったからである。

小狼は睨み合いを止め、自分のガールフレンドに目を向けた。
彼は目を大きく見開き、赤面し、口を少々パクリと開けた。
彼女はとても美しいドレスに身を包んでいたのである。
「お....おはよう、さくら。」
小狼は言った。

小狼に笑いを返し、さくらは彼が可愛いな、と言う事に気が付いた。
さくらはそんな事を考えると、赤面したのだった。
「おはよう、小狼君。い....いいかなぁ。」
さくらは両腕を広げ、小狼に自分の姿がしっかり見える様にして尋ねた。
「ああ、お前....お前、と....と、とっても綺麗だよ。」
小狼はそう言いながら、益々赤面していったのだった。

さくらの方も赤面(小狼ほどではないが)して言った。
「あ....ありがとう、小狼君。気に入ってくれて嬉しいわ。」

さくらと小狼はお互いに赤面し、床の方を見つめたままであった。
2人共、何も言えなかったからである。
だが、そんな場面を桃矢がぶち壊した。

「ヨォ!怪獣!」
桃矢が大声で妹を呼び、2人の沈黙を破ったのだった。

「さくら、怪獣じゃないもん!」
さくらは機械的に叫んだ。
まったくもう!
ずっと前から、桃矢はさくらを怪獣、と呼んできた。
私、怪獣じゃない!さくらはそう考えたのだった。

「夕メシまでには戻れよ。」
しかめ面をして妹に命じると、ドカドカと家の中に入っていった。

「ほえ?」
さくらは暫し呆然としたが、すぐに桃矢の言葉に答えた。
「分かった、お兄ちゃん。」
そして、笑いを浮かべ、小狼の方向に振り返ったのだった。
先ほどの沈黙は嘘の様に消え去っていたのだった。
「小狼君、行ける?」

小狼は少々口をへの字に曲げて言った。
「ああ。」

木之本家を出ながら、彼はさくらに尋ねた。
「どこに行きたい?」

さくらが答える。
「知世ちゃんがね、今週、面白い映画がある、って言ってたの。それで、チケ
ットを私達の為に取ってくれたんだよ。」
彼女は自分のハンドバッグから映画のチケットを取り出し、小狼に手渡した。

小狼はさくらからチケットを受け取り、そこに書かれている事を読んだ。
「11:00に友枝映画館?」
小狼が腕時計を見ると、10:34であった。
「余り時間が無いな。まずは....定刻迄に映画館に行こうか。」

さくらは笑って頷き、2人は映画館に向かったのだった。

小狼はキッカケが出来た事が嬉しかった。
実際の所、彼はどの様にデートすれば良いか分からなかったし、方法を人に聞
いた訳でも無かった。
そんな事もあり、彼はナーバスになっていたのだ。
彼は心の中で、さくらのサポートをしてくれた知世に感謝していた。

だが、2人とも、自分達の遥か後方にケロと知世がついて来ている、などと言
う事に気づく筈も無かった。

「あああ....」
知世はお決まりの「白昼夢モード」で、さくらと小狼に悟られぬ様、優しい
口調で言った。

「さくらちゃん、本当に可愛いですわぁ・・・・。」

「ヘッ、ヘッ、ヘッ」ケロはクスクスと笑った。と言うのも、2人の後を追う
事を楽しみにしていたからだ。

「面白くなりそうやな。小僧がどんなデートをするか、見たろやないか。」

ケロと知世はお互いに笑い、頷いた。
そして、2人の後を追いかけて行った。

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友枝映画館は、友枝町にある映画館の中でも、高いレベルの設備を持つモノの
1つであった。
しかし、最大の売り物は、他には無い、映画の臨場感が味わえるハイテクを
駆使したサウンドであった。
更に、映画館の近くには友枝水族館があり、様々な海洋生物を集めて展示して
いた。又、現在、水族館では「リトルマーメイド・フィギュアスケートショー」
もとり行われていたのだった。

「ほええええ....。」
さくらは、劇場の席に座ると、同時に溜息をついた。
「時間通りに来れたみたい、良かった。」

「ああ。」小狼もそれに同意して頷いた。

一方、2人の後をつけて来たケロと知世も、2人から、それ程離れていない
後方の席に座ったのだった。

やがて、場内が暗くなり、全てが闇に覆われた。
そして、映画の上映が始まった。

上映された映画は米国のラブストーリーだった。
初めはライバル同士だった男女2人が、仕事で競争し合い、死ぬ程お互いを嫌
っていたのに、運命のイタズラで同じプロジェクトを2人が担当する事となっ
た。そして、2人はひかれて行き、最後は恋に落ちる、と言う内容であった。

「愛してるよ。」映画の中の男性が言う。

「私もよ。」同じく女性が答える。

2人は顔を近づけ、眼を閉じ、唇を重ねた。

「あれがキスなんかい?」ケロは囁いた。とは言え、さくらと小狼がそうする
事を望んでいた訳ではないが。
ケロにとって、キスする、と言う事は「唇を重ねる」と言う事位の認識しか無
かったが、先のシーンが少しはケロの知識を向上させた様であった。

「愛し合う者同士が愛情表現をする方法の1つなんですのよ。ケロちゃん。」
知世はそう説明した。

一方、さくらの方はこのシーンを見て、すぐに赤面してしまった。
昨日の知世の言葉が再び頭の中に蘇って来たからだ。
<ほえええ!!!!>さくらは心の中で叫んだ。
<私、な....な....何を考えているんだろ?>
彼女は考えを振り切ろうとして、頭を左右に振った。
「さくら、どうした?」
小狼はさくらの方を振り向き尋ねた。
「あっ!何でも....何でも無いの!映画、見ようよ!」
さくらは答えた。
小狼は困惑し、再び呆気に取られた。
だが、彼はそれ以上、何も尋ねず、映画の方に注意を向けたのだった。

さくらは映画を見るふりをしながら、小狼の方を横目で見つめて笑いを浮かべ
た。薄暗い映画の光では、彼女は小狼の唇を見つめる事は出来なかった。
小狼とのキス....そんな事を考えると、彼女は一層、顔を赤らめ、肘を手で打
つと、恥ずかしくなってしまったのだった。
さくらは神に感謝した。何故なら、映画館の暗闇の中では、自分の真っ赤な顔
を小狼に見られる、と言う事が無かったからである。

上映が終わり、2人は歩いて映画館を出た。
「映画、良かったな。」
小狼がそうコメントした。

「う....うん。」
さくらは頷いた。
彼女の顔は、先のキスシーンを思い出して、赤面したままであったが。
「ウーン、と....次は何処に行こうか?小狼君」

小狼はその言葉を聞いて、少々考え込んだが、暫くして言った。
「そうだな....友枝水族館、なんてどうだ?」

さくらは小狼をジッと見つめ、頷いた。
「うん!」

2人は水族館のカフェで昼食をとった。
そのカフェは小さかったが、周りを海洋生物が見れる様に水槽や水の柱で囲ま
れていたので、食事を取るのにはもってこいの場所だった。

当然の事ではあるが、2人の後をつけて来たケロと知世も2人からそれほど離
れていない場所を陣取り、食事を取ったのだった。

昼食が終わり、2人は水族館の中を見て回った。
散策が終わり、2人は、誰もが絶賛する「リトルマーメイド・フィギュアスケ
ートショー」を見に向かった。

ショーは大変興味深いものだった。
小さな人魚の王女、海の王様、海の魔女、人間の王子、そして、様々な魚たち
が氷の上を滑っていった。
又、劇中の音楽も、楽しいものばかりだった。

最後のシーンでは、海の王様の助けを借りて、人魚の王女は人間となり、人間
の王子と結ばれたのだった。
2人はお互いに礼を交わすと、王子は花嫁に優しくキスをしたのであった。
その場面は、誰もが感銘を受けるものだった。

さくらは、そのシーンを見て、又もや赤面してしまった。
今日は沢山のキスシーンを見てきた事に驚いていた。
<小狼君とキスって、どんなのかなぁ?>
さくらはボンヤリと考えた。
だが、すぐに我に返り、その考えを打ち消した。
<ほえええ!私、何考えてんの!!>

一方の小狼の方も、沢山のキスシーンを気に留めていたのだった。
キスシーンがあると、さくらが頭を振っている、と言う事には気が付いていた
のだが、それが何故なのか分からなかった。
小狼は、自分がさくらと、どうしたらキス出来ないのか....と考え始めていた
のだった。だが、小狼はすぐに我に返った。
<お、お、俺、何を考えてるんだ?!>
心の中で小狼は叫ぶと、顔全体が真っ赤になった。

さくらも、小狼も、そんな考えを振り切ろうとして、激しく頭を左右に振った
のだった。

頭を振る2人を見て、彼らの後ろにいたケロが困惑した様子で言った。
「あの2人、何しとんねん?」

知世は何も言わず、ただ笑うだけだった。

ショーが終わり、時刻は19:00になっていた。

2人は歩いてホールを出た。さくらは少し赤面していたので、ずっと床の方を
見つめていた。と言うのも、小狼の方を見つめるのが恥ずかしかったからであ
る。「あ、えっと、ショー、面白かったね。」

「あ...ああ、そうだな。」
小狼も床の方を見つめて頷いた。
彼も又、さくらの方を見つめるのが恥ずかしかったからである。

辺りを見回し、こんな状況から抜け出る手段を探していると、さくらの目に大
きな湖が飛び込んで来たのだった。
「ねえ、小狼君、ボートに乗らない?」

「そ....そうだな!」
小狼は即座に同意したのだった。

2人はボートに乗って湖に出た。
すると、何処からか「リトルマーメイド」の挿入歌が聞こえて来たのだった。

There you see her
Sitting there across the way
She don't got a lot to say
But there's something about her
And you don't know why
But you're dying to try
You wanna kiss the girl

Yes, you want her
Look at her, you know you do
Possible she wants you too
There is one way to ask her
It don't take a word
Not a single word
Go on and kiss the girl

Sha la la la la la
My oh my
Look like the boy too shy
Ain't gonna kiss the girl
Sha la la la la la Ain't that sad?
Ain't it a shame?
Too bad, he gonna miss the girl

Now's your moment
Floating in a blue lagoon
Boy you better do it soon
No time will be better
She don't say a word
And she won't say a word
Until you kiss the girl

Sha la la la la la
Don't be scared
You got the mood prepared
Go on and kiss the girl
Sha la la la la la
Don't stop now
Don't try to hide it how
You want to kiss the girl
Sha la la la la la
Float along
And listen to the song
The song say kiss the girl

Sha la la la la
The music play
Do what the music say
You got to kiss the girl
You've got to kiss the girl
You wanna kiss the girl
You've gotta kiss the girl
Go on and kiss the girl


この歌を聞いて、さくらも、小狼も、顔が真っ赤になってしまった。
と言うのも、この歌が今の2人の状況をズバリ言い当てたものだったからだ。

<違う!違う!違う!早すぎる!だって、初デートじゃない!>
2人は考え、頭を振ったのだった。

すると、別のボートが彼ら2人のボートと接触してしまい、さくらは小狼の前
に投げ出されてしまった。

「ほえ!」さくらが叫んだ。

「さくら!」小狼は、さくらが湖に落ちる寸前、とっさに彼女を受け止めたの
だった。

「す、すみません!」別のボートの青年が謝罪した。

小狼は全て大丈夫だ、と分かると溜息をついた。
そして、青年の方に「大丈夫だ。」と答えたのであった。
彼はさくらを見下ろして言った。
「さくら、大丈夫か?」

「うん、小狼君....」
さくらは小狼を見上げて言った。

2人とも我に返ると、自分達の状況が明らかとなった。
さくらは小狼の胸の上に手を置き、ちょうど抱擁されている様な状態であった。
更に、2人の顔は接近しており、お互いにじっと見つめあっていたのだった。
2人の心臓は音楽を奏でるがごとく、ドキドキと脈打っていた。

Sha la la la la
The music play
Do what the music say
You got to kiss the girl


「さくら....」小狼が囁く。

「小狼君....」

You wanna kiss the girl

目を閉じた小狼の顔が近づくと、小刻みに震え、さくらは目を閉じた。
2人共、お互いの息をこらしている事にも、気が付いていなかった。

You've gotta kiss the girl

知世とケロも息をこらし、別のボートから2人を観察していた。
2人のボートから、それほど離れていない所から、今か今かと、そのシーンを
待っていたのだ。

「よっしゃあ!やりよった!」
ケロが小さな声で叫んだ。

Go on and kiss the girl

目を閉じていたさくらは、小狼の温もりを感じる事は出来たが、彼の顔が近づ
いている気配は感じ取る事が出来なかった。
次の瞬間、彼女は唇に柔らかい感じを感じとった....のでは無く、鼻の上に?

さくらも、小狼も、目をしっかりと見開き、我に返った。
そして、唇から右の方にずれていた事に気が付いたのである。

ケロは一寸失望した様な感じだった。
そんな彼を慰める為、知世は背中を軽く叩いた。

一方、さくらと小狼は、さっと離れると、又もや赤面してしまった。

「す....す....すまない!」
赤面した小狼が謝罪した。

さくらは、下を向いて、頭を左右に振った。
「だ....大丈夫だよ、小狼君....」

それから、2人は、赤面したまま、黙りこくってしまった。
2人共、何か言うのが恥ずかしかったからである。
岸に戻ると、桃矢に言われた夕食の時間になっている事に気が付いたのだった。

木之本家までの道のりで、2人は黙りこくったままであった。
更に、2人とも顔を真っ赤にしていた。
そして、勿論の事ではあるが、ケロと知世も2人の後を追いかけて行った。

やがて、木之本家が視界に入ってくると、小狼は歩くの止めた。
自分の家に帰る前に、さくら言っておかなければならない事がある、と考えた
からである。
彼は勇気を振り絞ってガールフレンドの名前を呼んだ。
「さくら」

「は...はい?」
さくらは歩きを止め、答えた。

「ごめんな。」

さくらは小狼の方を振り向き、困惑した様子で尋ねた。
「ほえ?何で?小狼君。」

小狼もさくらの方を振り向くと、目は罪悪感に満ちていた。そして、さくらに
言った。
「キスの事な....最初にお前に聞くべきだった....お前には本当に悪い事をし
たな....」

「違う!違う!貴方のせいじゃないの!私も小狼君にキスして欲しかったんだ
から!ほえ!」さくらは口をつぐむと、手で口を押えた。
彼女はさっと下を向き、更に顔は真っ赤になった。

小狼はあっけにとられた。
彼女も又、キスして欲しかったと言う事が分かると、彼も又、さくら同様、顔
を真っ赤にしたのである。

「今日....今日は楽しかった。小狼君。」
さくらは小さな声で言った。

「俺もだ....」

長い沈黙が2人の中に漂った。だが、その沈黙をさくらが破った。
「帰らなくちゃ....又、明日。じゃあね、小狼君。」

「又、明日な。」

「又、明日。」

2人共、じっとお互いを見つめたままだった。と言うのも、別れたく無かった
からである。

「じゃあね、小狼君」
さくらは急いで家の中に入ろうとして、くるりと方向を変えた。

「さくら」

さくらは小狼の方を振り向いて尋ねた。
「ほえ?何?小狼君。」

小狼は赤面したまま、さくらに歩み寄った。
そして、彼女に近づくと、額にキスしたのだった。
「おやすみ。」
小狼は赤面したまま、優しく言った。

さくらは小狼を見つめ、赤面してしまった。
そして、すぐに下を向いてしまった。
「お....おやすみ、小狼君。」

2人共、さくらが家の中に入るまで、立ちすくしていた。
彼女が家の中に入ると、小狼が手を振っている方向に再び振り返った。
小狼はさくらに笑いを投げかけ、さくらも笑いを返した。

さくらが無事、家の中に入ったのを見届けた小狼は、「おやすみ、さくら」と
呟き、くるりと方向を変え、自分のアパートに向かった。
彼の顔は満面の笑みで溢れていた。

さくらは自分の部屋の窓から、通りを見つめ、小狼の後ろ姿を見届けた。
彼女は、先ほど小狼にキスされた額に手をあて、呟いた「おやすみ、小狼君。」
そして、又もや赤面してしまった。
窓を優しく閉めると、壁にもたれかかった。
幸せで溜息をつき、笑みがまんべんなくこぼれたのだった。
暫くして、彼女は不思議そうに辺りを見渡し、そして、考えた。
<あれ、ケロちゃん、何処行ったんだろ?>

2人が家に帰ってからも、後をつけてきたケロと知世は、まだ通りに立って
いた。知世はお決まりの「白昼夢モード」で言った。
「ああっ、素晴らしいですわぁ!このテープ、私のベストコレクションになり
ますわ!」

「でも、あの2人まだキスしとらんやないか!」
ケロはとても失望した様な様子だった。と言うのも、2人がキスする事を期待
していたからである。

「心配ありませんわ!ケロちゃん!もうすぐですわ!そして、私がそのシーン
をビデオに収めますのよ!」

「よっしゃあ!ワイもそのシーン、見逃せへんでぇ!」
ケロは威勢良く言った。
ともあれ、2人の楽しみはまだまだ尽きそうに無さそうである。

(終わり)



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15 March 2001 by Mee-Na
Translated by alpha7 at February 28,2003

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