「使徒との闘いの後で....:第1部:事故」
(Orginal Title:AN AMNESIC ANGEL...-THE FIRST MEMORY:
The accident)

出典:Asuka's Notebook
(http://aterizak.free.fr/an/site/)

著者:Axel Terizaki
訳者:alpha7

シンジ:「アスカ!後退だよ!」

だが、遅すぎた。
シンジの援護射撃はアスカの反応に間に合わなかった。
弐号機は使徒の放ったエネルギービームの餌食となった。

アスカ:「ンンンンンンンン.....」

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NERV発令所

ミサト:「アスカ!」

マコト:「パイロットの反応に変化が出ています!」

シゲル:「A-10神経接続システム、反応ありません!」

リツコ:「どうしたの?」

マヤ:「先輩、ディスプレイの表示が乱れています!」

ミサト:「リツコ!」

リツコ:「弐号機とパイロットの神経接続を切断して!」

マヤ:「駄目です!信号が受信されません!」

ミサト:「アンピリカルケーブル切断。」

ミサトの命令で、弐号機のアンビリカルケーブルが切断された。
だが、弐号機はプロレシッグナイフを持って使徒に向かって突進して
行った。

リツコ:「....暴走?!」

マコト:「弐号機停止まで後1分!」

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目の前の出来事にシンジは恐れおののいた。
レイも彼の右側にいたが、彼女もまた、その出来事を無表情に見つ
めていた。

シンジ:「な....何....?」

弐号機を攻撃しようとした使徒は初号機にも攻撃を仕掛けてきたの
である。だが、初号機への攻撃は失敗に終わった。
弐号機は信じられないスピードで使徒に突進し、ATフィールドを
即座に無力化し、使徒のコアのプログレッシブナイフを付きたてた
のであった。

皆はそんな弐号機の行動にあっけに取られた。

弐号機の動力が1分後に切れ、最後に、弐号機はその場に静止した
のであった。

ミサト:「救護班を派遣して!」

シゲル:「了解しました。」

マヤ:「プラグの射出信号、受信されました。現在、射出中です。」

弐号機の首の後ろが動き、エントリープラグが姿を現した。

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暫くの後....少女の2つの目が病院の1室で開いた。

アスカ(呟く):「何....頭が....」

彼女は自分の右側を見つめた、そして、そこにはシンジが椅子に座
っているのが見えた。
シンジはアスカが自分の方を向くと、焦ってしまった。
彼は、セカンドチルドレンに予想できない悪い事が起きたのでは、
と恐れていたからだった。

シンジ(立ちあがる):「ああ....ごめん....僕、今、出て行くよ。
君と目が合ったからね....ミサトさんの命令だったんだ....何も、
無かったよね。大丈夫だったかい?」

アスカ:「ねえ、何で謝ってるの?少年?」

最後の言葉に、シンジは巨大なハンマーで殴られた様に感じた。

シンジ:「少....少年?どうして僕をそんな風に呼ぶんだい?アスカ。」

アスカ:「アスカ?誰よ?私、ここで、そんな人に会ってないわよ。」

シンジはショックで立ちすくんでしまった。

アスカ:「ねえ、答えてよ。バカ!それがアンタの名前よね?私、
アンタを知ってるわ....バカがアンタの名前よね?」

シンジの心は、思いきり笑いたいと言う気持ちと、逃げ出してしま
いたいと言う気持ちが入り乱れていた。
だが、その気持ちはこの状況を打破しようと言う気持ちにかき消さ
れたのだった。

シンジ:「アスカ....君は....君は?」

アスカ:「何よアンタ?それに、アンタが言ってるアスカって誰な
のよ?」

シンジ(心の中で呟く):「アスカめ、僕をからかおうって魂胆だ
な....じゃあ、そのお遊びに乗ってやるよ。」
(アスカに向かって)「OK、君の名前は?」

アスカ:「何?アンタ、私をバカにしてるわね。私の名前は....
メインゴット....」

アスカはベッドから起きあがり、丸くなって泣き始めた。

シンジ:「ごめんよ、アスカ....君を泣かせようとしてた訳じゃ無
いんだよ。大丈夫かい?僕は....」

アスカ:「うるさいわね!私、何もかも思い出せないのよ!自分の
名前さえもね!出来ないのよ!頭が!頭がズキズキする!何処なの
ここ?」

シンジは本当に困惑してしまった。

シンジ:「君....君、本当に思い出せないのかい?」

アスカ(泣いている):「私、そう言ったじゃない、バカ。今すぐ、
ここから出てって!」

シンジ:「出て行け?そのつもりさ....」

シンジはドアの方向に向かい、開けた。そして、ドアを閉めようと
した。だが....

アスカ:「アンタの名前は?」

シンジ(皮肉っぽく):「君が言った通りさ。僕はバカだよ。」

アスカ:「ううん、アンタの名前じゃないわ。私、そう確信してる。
バカがアンタと出会った時に最初に心に浮かんだ言葉だったのよ。
アンタの本当の名前は何なの!」

シンジ:「シンジ、碇シンジ。」

アスカ:「シンジ....バカシンジ....ああっ!痛い!!!」

シンジは病院の廊下で動けなくなってしまった。
彼は、赤毛のエヴァパイロットのうめき声を聞いていると、ドアを
閉めてしまいそうになった。

アスカ:「どうか....教...えて。私の名前は?」

シンジはアスカにすぐさま駆け寄り、彼女にもたれ掛った。
そして、彼女の左耳に向かって優しく、彼女が安心出来る様な声で
語り掛けた。

シンジ:「君の名前はアスカ。惣流・アスカ・ラングレー、いいか
い?もう忘れちゃ駄目だよ。」

アスカ:「....有り難う、バカ....ううん....つまりその、碇君。
ごめんね。」

シンジはレイに『碇君』と呼ばれる事には慣れていたが、アスカに
そう呼ばれるのには慣れていなかった。

シンジ:「シンジか、バカでいいよ。惣流さん。」

アスカ:「それなら、アンタが私を呼ぶ時はアスカと呼んで。それ
で、アスカが私の名前なのね。私、それが正しいとすべきなのね..
...」

シンジ:「さてと、ミサトさんと一緒に来るよ。いいかい?」

アスカ:「ミ....ミサト....親しみの有る響きだわ....でも、私、
名前と顔が一致しないのよ!どうしたの!?頭が痛い!」

シンジ:「僕達が助けてあげられるかも....どうか、少し休養して
よ。僕はすぐ戻ってくるから。」

アスカ:「シンジ....私、アンタが誰か、自分が誰かも分からない
の。でも....有り難う。」

シンジは病室のドアを自分の背後で閉めると、病院の廊下に消えて
行ったのだった。

---

ミサトのオフィス

ミサト:「アスカが、何ですって?」

シンジ:「ハイ、ミサトさん....僕は、アスカが何時もの様に、
本当にからかっているとは考えられないんです。それで、本当に
そうなんじゃないか、って思ってるんです。」

ミサト:「アスカが?記憶喪失?私達のアスカが?」

シンジ:「それに、かなり重症の様ですね。僕と最初に有った時に
僕の名前も思い浮かばなかったし、最初に頭に浮かんだ僕の名前が
『バカ』だったんですから....」

ミサトは満面の笑みを浮かべた。そして、笑いながらも自分の役目
について認識していたのだった。

ミサト:「ウーン....エヴァに精神汚染されたのかしらね....これ
はリツコに聞いてみないとね。」

シンジ:「重大な事なんですか?」

ミサト:「そうね。本当だったら、あの子、弐号機の操縦は出来な
くなるわね。」

シンジはミサトから、少しばかり目をそらした。

ミサト:「いいわ。アスカの所に行きましょ。私、リツコも呼んで
くるわ。」

---

再びアスカの病室

シンジとミサトが入って来ると、アスカは鏡に映ったの自分自身を
見つめていたのだった。

アスカ:「これが....私?」

アスカは自分の頬に手を当てていた。

アスカ:「そう、これが私。」

シンジ:「....アスカ?」

アスカ:「ハ....ハイ?」

彼女は振りかえり、シンジとミサトを見つめた。
アスカはミサトに見つめられると、息が荒くなった。そして、後ず
さりしようとした。

シンジ:「何も恐れなくてもいいよ。この人は友達だから。」

その言葉を聞くと、アスカはすぐに落ち着きを取り戻した。

ミサト:「アスカ....貴方、何か思い出す事、出来ない?」

アスカ:「貴方、誰?」

ミサト:「さてと、それの答えはノーだ、と思うんだけど....」

アスカ:「私、分からない。貴方....?」

ミサト(笑いを浮かべる):「私は葛城ミサト。戦術担当三佐で、
貴方の保護者よ。」

アスカ:「私の....保護者?両親じゃないわよね?家族?私....
私....」

シンジは、そんなアスカから目をそむけた。

アスカ(怯える):「私....一人なの?」

ミサト:「アスカ、貴方は特務機関に所属してるの。貴方の全ての
データは消去されてるわ。貴方には両親は居ないし、過去も、何も
無いのよ。貴方だけじゃない、私も、シンジ君も、レイもね。」

アスカ:「そうなの....私、何かの兵士なのね。多分、諜報機関員?」

ミサト:「いいえ、そうじゃないわ。立てるかしら?私、貴方に見
せたいものがあるから。」

アスカ:「さて、私に選択の余地は無いと思うから。」

ミサト:「いいわ。ついて来て。」

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2〜3分後、アスカはシンジとミサトについて、セントラルドグマ
の通路を歩いていた。やがて、彼ら3人は弐号機のケージの前に辿
りついた。

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弐号機ケージ

アスカ(弐号機を見上げる):「何....何、これ?」

ミサト:「貴方のエヴァンゲリオン弐号機よ。」

アスカ:「エヴァ....何?」

ミサト:「言い代えると、貴方は、このロボットの選ばれたパイロ
ット、って事になるかしら。」

アスカ:「私が?これを操縦?貴方、おかしいわ。葛城三佐!」

ミサト(笑う):「ミサト、って呼んでくれればいいわ。パイロッ
ト惣流。」

アスカ:「私、こんなのの操縦出来ないわ!貴方、私をからかって
るのね!」

ミサト:「でも、これが使途の脅威なの....貴方は操縦しなければ
ならないの。さもなくば、私達は侵略者によって全て死ぬ事になる
のよ。」

アスカ:「つまり、要約すると、こうなるのね。私、この巨大ロボ
ットを操縦しなければならなくて、巨大な都市の中で、巨大な武器
を持って、巨大な地球外生命体と闘わなくてはならない。それに、
私の大いなる頭痛の種も一緒にね!」

ミサト(機嫌良く):「ご名答!」

アスカ:「貴方、私をからかってる!私、こんなの操縦出来ないわ!」

ミサト(優しく):「シンジ君もエヴァパイロットなの。分かるわ
ね。」

アスカ(シンジの方に頭を向ける):「アンタ....私達、同じ事を
してたの?」

シンジ:「あ....ああ、僕の初号機もここに有るよ。」

アスカ:「アンタ、これを動かしてたの?きつくなかった?難しく
なかった?沢山覚える事が有ったでしょ?」

それを聞き、シンジは無論、エヴァを操縦する事は苦痛で厳しいと
言う事をアスカに言いたかったが、その一方では、アスカが弐号機
に乗れる様、彼女を勇気づけるミサトの手助けもしなくてはならな
かった。

シンジ(笑う):「ね。そうじゃないよ。君はしたい事を考えるだ
けでいいんだ。そうすれば、エヴァはそれに従ってくれる....簡単
だろ?」

アスカ:「本当に?」

シンジ:「ああ。」

沈黙。

アスカ:「アンタ、誠実ね。私、アンタを信用できるわ。」

アスカはミサトの方に振りかえった。

アスカ:「分かったわ。私、このロボットを操縦するわ!」

ミサト:「貴方が戻ってきて嬉しいわ、アスカ!」

すると、丁度、リツコが別のドアからケージに入って来た。

リツコ:「それで....こちらが『記憶喪失』のパイロットね。」

アスカ(リツコを見つめる):「そんな風に私を呼ばないで!私も
そう思ってるんだから!貴方、医者ね?」

リツコ:「思いっきり外してるわ。」

アスカ:「それで、私、貴方をどう呼べばいいのかしら?」

リツコ:「リツコ、赤城リツコよ。それで、貴方、本当に記憶喪失
なのね....私みたいな科学者に貴方、嘘はつけないと思うから。」

ミサト(シンジに向かって):「貴方、正しかったわね。」

シンジ(ミサトに向かって):「ええ、僕も最初は冗談だ、って思って
いたんですよ。」

ミサト(シンジに向かって):「でも、冗談じゃ済まないわね。本当、
最悪の事態よ。分かるわね....」

シンジ:「そうですね。」

---

ミサトの車

ミサトはシンジとアスカの家に車を走らせていた。
彼ら2人は後部座席に座っていた。

アスカ:「何なの?この都市。どうして、天井にビルがあるの?」

シンジ:「僕達はジオフロントに居るんだよ。そして、君に見てい
るのは第三新東京市だよ。」

アスカ:「どうして私達、地下にいるの?地上には何か恐ろしい物
でもあるの?」

シンジ:「そうだね。第三新東京市は使途を迎え撃つ為の要塞都市
だからね。」

アスカ(困惑する):「使途?さっき、葛城三佐がその事を話して
くれたけど、私、良く思い出せないのよ。」

シンジ:「僕達はエヴァンゲリオンの力を借りて使途と戦っている
んだよ。」

アスカ:「エヴァンゲリオン....私が見た巨大ロボット?」

シンジ:「そう。僕達、つまり、綾波や、君、そして、僕はこの
都市を守っているんだ。そして、人類もね。」

アスカ:「ワーーーッ、本当のSF小説みたいね!もし、私が正し
いのなら、私、特別な人間って事ね?」

シンジ:「まあ、一種そうかな....」

アスカ:「教えて、シンジ....」

シンジ:「な....なんだい?」

アスカ:「それで、私達、エヴァンゲリオンの中では安全なの?
どうやって動かすの?私、死ぬほど知りたい!」

シンジ:「そうだね。僕が知ってる限りでは、エヴァには君の心が
伝わり、エヴァが感じた事が君にも伝わるんだ。もし....ウーン、
君が歩きたいとイメージしたとする、そうすれば、エヴァも歩くん
だ。でも、恐ろしい事もある。エヴァが痛みを感じた時には、君の
体は傷つかないけど、同じ痛みが君にも伝わるんだ。(優しく言う)
一度、僕は自分の腕を切り落としたいと考えた事がある。実際には
そうしなかったけど....でも、僕はエヴァの腕の何度も失わせた事
があるんだ。でも、僕の腕はこの通りさ....分かるかい?」

アスカ:「それって。『諸刃の剣』見たいね....」

シンジ:「言いかえると、そうなるかな。」

アスカ:「シンジ....」

シンジ:「何か聞きたい事が有るのかい?」

アスカ:「....ううん、今は無いわ。私達、後でも会えるから。」

---

アパートに到着。

ミサトはドアを開けた。
そして、アスカはアパートの中に入った。

アスカ:「懐かしい場所だわ。私、以前から、ここに住んでたって
言えるわ。」

ミサト:「そうよ。ここは貴方の家だもの。アスカ。私達の家よ。」

アスカ:「私達?私、貴方と一緒に住んでる?あっ、そうよね。貴方
私の保護者なんだもんね。そうよね....」

アスカはまるで失望したかの様に頭を下げた。

アスカ:「それで....シンジ、アンタ、どうするの?」

シンジ:「何をどうするんだい?」

アスカ:「アンタ、何処に住んでるの?」
(呟く)「遠くじゃないわよね。お願い。」

シンジ:「ああ、ここは僕の家でもあるからね。僕達、家族見たい
に一緒に住んでるんだよ。」

それを聞くと、アスカの顔が突然明るく(シンジやミサトは驚かさ
れたが)なった。

アスカ:「一緒に?本当?」

沈黙

アスカ(幸せそうに):「ねえ、シンジ。私の部屋に案内してくれ
ない?」

ミサト(手にビールを取りながら)「いらしゃい、シンジ君!彼女
に家の中を案内してあげなさい!」

シンジ(ミサトを見る):「ハイ。」

シンジはアスカを浴室や、キッチン、最後には『アスカの部屋』と
ドアに書かれた彼女の部屋の前に案内した。

アスカ:「それで....私の部屋。」

アスカは部屋のドアノブに手をかけ、ゆっくりとそれを回し始めた。
だが、ドアノブをまわし始めてから、彼女は部屋に入らないと心に
決めていたのだった。

シンジ:「どうしたの?」

アスカ:「ああっ....頭が痛い....イヤ....私、この部屋に入れな
い。今は....」

シンジ:「どうして?」

アスカ:「私....何か感じるの。言葉では表せないけど。この部屋に
には悪い事を感じるの。それだけよ。」

シンジ:「僕と一緒に入らないかい?」

アスカ:「アンタ、そうしてくれるの?怖いわ....でも、ここは、
恐怖は乗り越えなくっちゃいけないわね!アンタ、正しい。私、臆
病者じゃないしね!それに、一緒なら頭痛も和らぎそうだし!いい
わ、私、今から入ってみる!」

そして、彼女はドアを開け、中に入った。

アスカ:「私の部屋....」

アスカはベッドを見つめた。

アスカ:「私のベッド....」

次は机。

アスカ:「私の机....」

彼女は自分の戸棚を開けた。

アスカ:「これが私の服....ウーン....私、良い趣味してるわね!」

シンジ:「僕、出て行くべきだね。君のプライベートな事でもある
し。」

アスカ:「イヤ....もう少し、ここに居て....私、アンタがそばに
居ると気分が良いの。」

シンジ(呟く):「何で?」

彼女は床を見つめ、散らかっている自分の持ち物を見つめていた。

アスカ:「ねえ、何て散らかり様....」

突然、ミサトがキッチンから2人を呼ぶ声が響いた。

ミサト:「アスカ、シンジ君!夕飯、出来たわよ!」

シンジ:「おっと....僕、ミサトさんが料理するのを忘れたよ!」

アスカ:「どうして、そんなに恐れてるの?何か、怖い事でもある
の?マ....ううん、ミサトって、料理上手く無いの?」

シンジはいらついた表情でアスカをジッと見つめていた。

アスカ:「おっと....そんなに悪い事なの?それなら、私、何も食
べたく無いから....」

---

夕食(ミサトの料理)

アスカは本当に何も食べなかった。
その第一の理由として、ミサトの料理は余りにも『魅力的』では無
かった事。第二の理由として、全てを考慮しても、彼女は空腹では
無かったからである。
(作者注:この状況下では、第二の理由が最初の理由より勝ってい
るもの、と思われますが....)
彼女は自分の部屋に引き上げて行った。

シンジ:「....アスカ、以前とは違う....明らかですね....」

ミサト:「つまり、貴方と一緒なら大丈夫、って事なのかしら?」

シンジ:「ハ....ハイ、そうみたいですね。」

ミサト:「分かってると思うけど、彼女、小さいときに起こった事
も忘れてると思うから....」

シンジ:「いいえ、僕もその事は聞こう、とは思いません。悲しい
話しみたいだから....」

ミサト:「そうよね。」

沈黙

ミサト:「さっき、アパートに来たとき、アスカ、幸せそうに思え
たんだけど....」

シンジ:「僕もそれには気が付きました....それに、エヴァを見せ
た事でアスカの心に変化が出たんでしょうね....きっと。」

ミサト:「アスカが目を覚ました時、最初に会った人が貴方なのよ
....シンジ君、どうかあの子の事、分かってあげて。あの子、知ら
ない世界の見知らぬ人みたいに感じてるのは間違いないし、ここの
回りにいる人は誰も知らないし....そう言う状況があの子を恐れさ
せているのは間違いないしね。」

シンジ:「言われた事、良く分かります。」

ミサト:「貴方、彼女のそばに居るべきね。」

シンジは困惑した表情でミサトを見つめた。

ミサト:「違うわよ。『恋愛』って事じゃなくて、友達としてよ..
..貴方は彼女の記憶の回復の手助けをしなければならない、って事
なの。良いわね?」

シンジ:「分かりました....」

ミサト:「明日、貴方はハーモニックステストをするべきだったん
だけど....私、リツコと話して、彼女のテストを止める様にするわ。
それで、貴方は彼女と一緒に第三新東京市や、学校、その他を回って
あげないとね。それから、私達が持ってる写真も見せてみて、助け
になるかもしれないし....」

シンジ:「アスカ、何かを思い出そうとしたら、頭痛がする、って
事に僕、気が付いていたんですけど。」

ミサト:「さて、写真の事、忘れてたわ....」

シンジ:「でも、僕、やってみます。」

ミサト:「貴方も知ってる通り、私達にはパイロットを訓練する
時間は無いの....もし、あの子の記憶が全て戻るんだったら、それ
が私達全てにとってベストな事になるのよ。」

シンジ:「分かりました。」

---

その夜遅く

シンジは眠る事が出来なかった。
考えごとがあった為、それが眠る事を阻害していたのであったが..
..

彼は、自分の部屋に誰かの足音が近づいてくるのを聞いて、ベッド
から起き上がった。

シンジ:「誰?」

アスカ:「ウーン....あっ、いけない事とは分かっていたんだけど
....ごめんなさい、私、出て行くから....お休みなさい。」

アスカはナイトドレスに身を包んで、シンジの部屋のドアの近くに
立っていた。
シンジは、アスカの最後の言葉に失望している雰囲気を感じ取った
のであった。

シンジ:「いや....ここに来なよ....分かってると思うけど、僕も
眠れないんだ。話をしないかい?」

アスカ:「えっ....う、うん....」

シンジは彼女の言葉から、以前の様なキツイ性格のアスカではない
では無い、と感じた。

シンジ:「僕の横に座りなよ。」

アスカ:「アンタが良ければ....」

彼女はベッドの上の彼の横に座った。

シンジ:「それで、何を話そうか?」

アスカ:「何処から話を始めれば良いのか、分からない....」

シンジ(彼女をリラックスさせようとする):「来なよ。僕は君の
友達だよね?」

アスカ(笑う):「シンジ....私、アンタに聞きたい事があるの。」

彼女は明らかに神経質になっていた。

シンジ:「なあ、そんなに神経質にならなくてもいいよ....それで
僕にして欲しい事って何だい?」

アスカ(最も可愛い表情を浮かべる。作者注:そんな表情を浮かべ
られて、抵抗できる男は、この地球にはいませんよね?)「私と..
..私と一緒に寝てくれない?」

シンジ:「な....何だって!?僕と....僕と一緒に寝るだって!?」

アスカ:「お願い....私、誰かと一緒に居たいの。一人じゃなくっ
て。わ....私、悪夢にうなされたの....お願い....」

シンジ(呟く):「アスカ、まるで、夜中に父親の助けを求めてる
子供見たいだなぁ。」(アスカに向かって)「悪....悪夢だって?
どんなのか、話してくれないかな?」

アスカ:「そう....私が小さい時なの。私は走ってて、私の回りの
人に、私は特別だ、って言ってたの。特別な事って、私がエヴァパ
イロットに選ばれた、って事なのよ。そして....私、ドアを開けて、
誰かが天井からぶら下っているのを見たの....、(泣き始める)私、
その人、誰か知らない....でも、とっても悲しくなった。泣きたく
なって、それで....」

アスカが泣き叫ぶ寸前になるのを見て、シンジは彼女を泣き止ませた
のであった。

シンジ:「大丈夫だよ。君は今、目を覚ましてるじゃないか。僕はここ
に居る。それに、君は生きてるし....そんな事は起きてない。いいね?」

アスカ(涙声で):「ありがとう、シンジ。アンタ、私に優しいの
ね。それで、さっき私、アンタの事、『バカ』って呼んだわよね。
恥すべき事ね....」

シンジ:「問題ないさ。僕、そう呼ばれるのに慣れてるから。」

アスカ:「本当?誰が、そんな風にアンタを軽蔑したの?私、そいつ
を引っ叩いてやるわ!」

シンジは、その質問に答える事にためらってしまった。

シンジ:「実は....以前、君が僕をそう呼んでいたんだよ....まあ、
偶然だよ。」

アスカ(あきれ顔で):「私が呼んでたの?私がアンタをそう呼ん
でたの?どうして私....私、気がおかしかったに違いないわ....何
て事なの!私、自分自身が許せない!」

アスカの頬に涙が再び流れ始めた....

シンジ:「今は、問題ないよ。さあ、落ち着いて....僕の所に来な
よ。」

シンジは自分のベッドのシーツをめくった。

アスカ(幸せそうに):「いいの?有り難う、シンジ!」

アスカはシンジのベッドに走って行った。

シンジの方は女子と一緒に寝ると言う事には慣れていなかったが、
考え直す事なく、これは良い事だ、と確信していた。
(無論、彼は疲れていたのであるが....)

アスカ:「同じベッドに男女が一緒に寝る、なんて良い事じゃ無い
って事は分かっているけど....私には、こうする事が必要なのよ。
ごめん。」

シンジ:「謝る必要は無いさ。君の気持ちは理解してるから。」

シンジはアスカの顔を直接見る事無く、顔をそむけていた。
アスカはシンジの胸に手を回し、彼の背中に体を押し付けてきた。

アスカ:「こうしてると....気分が良いわ....アンタ、暖かい。」

シンジ:「君もだよ。」

アスカ:「シンジ、教えて....私、本当の事は分からないけど....
その....アンタ、ガールフレンドいるの?」

シンジ(呆然とする):「ガ....ガールフレンド....?」

アスカ:「つまりその....アンタ、さっきレイと話をしてたわよね?
あの子、素晴らしい子に違いないわね。アンタと喋っていたんだから
....私、あの子に会ってみたい!」

シンジ:「まあ....実際、そうだけど....」

アスカ:「あの子、アンタのガールフレンドに違いないわね。変な
事聞いて、ごめん....聞くべきじゃ無い、って事分かってたんだけ
ど....恥ずかしい....」

シンジ:「....彼女はガールフレンドじゃ無いよ。」

アスカ:「じゃあ、別の子がいるの?アンタみたいのには、1人は
居るわよね。でも....ひょっとしたら、私にも....」

シンジ:「僕にはガールフレンドは居ないよ。今はね。」

アスカ(幸せそうに):「本当!?じゃあ....私、アンタのガール
フレンドになってもいいのね?」

シンジ(再び呆然とする):「何だって!?」

アスカ:「うん....私、そうしたいの。私、アンタの助けは出来な
い。でも、私、アンタと一緒にいると安心できるのよ。それに....
アンタが信頼できるのは分かってるし、アンタだけなの....この
見知らぬ世界では。」

シンジ:「何で、そんな風に考えたんだい?」

アスカ:「アンタ、私に親切にしてくれるし....それに、私が目を
覚ましている時には、ここに居てくれる。その事はアンタが私を
世話してくれてる、って証拠なの。アンタに私の事で重荷を背負わ
せている事には、すまないと思ってる。もし、アンタが私をサポー
ト出来なくなったら....その時には出て行くから、心配しないで。」

シンジ:「いや....僕が言いたかった事はそんな事じゃないよ....」

沈黙

シンジ:「もし、君の記憶が戻ったら、僕は君がどんな反応をする
か分からないよ....」

アスカ:「どうして?どうして、そんな事を言うの?」

シンジ:「僕が知ってたアスカは、とても魅力的とは言えなかった
し、可愛いとは言えなかったよ....僕と一緒に居るときはね。」

アスカ(クスクス笑う):「バカ....私、又、言っちゃった。」

シンジ:「気にしなくっていいよ。」

アスカ:「アンタバカ....私、アンタをそういう風に呼ぶのが好き
なのね。でも、アンタには良くないわね。」

シンジ:「僕も言ったけど、もし、君の記憶が戻ったら、君は僕の
ガールフレンドになりたい、なんて思わないよ。」

アスカ:「それなら、記憶が戻らなくってもいい。」

シンジ:「何て事いうんだい?」

アスカ:「頭が痛い....」

シンジ:「何?」

アスカ:「私、昔の事を思い出そうとすると、酷い頭痛に襲われる
の。それに、もし、全てを思い出したら....私、アンタと一緒には
居られない、って事を意味する事になるでしょ。それなら、私、
記憶が戻らなくってもいい。」

シンジ:「そんな事、言うもんじゃないよ、アスカ。君の記憶は戻
るよ。遅かれ、早かれ。」

シンジは自分の背後でアスカが寝息を立てているのを聞いた。
彼は彼女が眠りについた事を悟ったのであった。

シンジ(呟く):「少なくとも。今のアスカは可愛くて、普通の
女の子と変わらない事は分かった....心配しなくっていいよ。アスカ
僕が助けてあげるから。」

(続く)

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では、第2部「親しみ」に、請うご期待!