「あかりへの献身」
(Original Title:Devotion)


出典:Dreiser's Page
(http://www.angelfire.com/anime2/superhighway/Dreiser/dreiser.html)

作者:Dreiser
訳者:alpha7

物事、ちゅうもんは、どんなに筋道を立てても、どっかで、全く
予期せん事が起きるもんや。

だから、人生は面白いんや。

例えば、ウチを連れってくれ、っても、ウチ、こんな事が起きる、
なんて全く予想できんかった。
ウチはいつも、あかりを引っ張って来た、と考えとったからな。

でも、あかり見たいな奴とウチは一緒にいる。
ウチがそうだった様に、あかりを愛しとるのが居るんやな。

ウチにはやらないかん事が山程ある。

でも、あかりの死は本当、予期せん事やった。

あいつのかーちゃんの巴さん見たいに、突然、ウチらを驚かせると、
どっかに行ってしまったんや。

ウチのかーちゃんが言っとった。
あかりは「あの光」の中に行ってしまったんや、って。
光の力は大きくて、あいつを燃え尽きさせてしまったんやな。

あいつは体の中から蝕まれとたんや。でも、あいつの偉大さと同じ
様に、あいつの命の火はあいつを包んどったんやな。

時々、ウチ、その火がウチを包んどってくれればいいのに、思った
んやがな。

でも、理解出来へん....あかりの死、つまり....

あいつはとっても健康的で、活き活きしとった。それに、全てが
上手くいっとった。あかりのかーちゃんちゃんも戻って来て、あ
かりとかーちゃんの可笑しな諍いを考慮せんときゃ、2人とも上
手くやっとった。
まあ、諍いの原因は2人共、若い力に溢れとったからやけどな。

事実、あいつの唯一の問題と言えば、クリスの奴とウチがイザコザ
を起こしとった事ぐらいや。でも、その事があかりを煩わす事は
無かったしな。あかりは、まるで、自分がウチとクリスの2人共
に愛されとるかを見透かした様に走り抜けてったんや。

じゃあ、ウチらは如何してその事を分からんかったんやろ?

あかりはウチらのどちらかを選ぶ事が出来へんかった。と言うの
も、ウチら2人とも同じ様に愛しとったんやろな。ウチら2人共
あいつへの献身と情熱に溢れとったさかい、あかりもその事を分
かっとったし、多分、その事もあかりは感じ取っとたんやろな。

あかりは3人で一緒に居たかったや。

でも、ウチらが気が付くと、あかりの死から相当の時間が経った
んや。そいでもって、その時間を取り戻す事が出来んかったんや。

あかりの死を乗り越えて行くのには時間が掛かった。
ウチは自分の訓練を放棄して、大阪の家族らの心配も無視したんや。
一方のクリスは、月に戻って、あいつの可笑しな宗教の慰めを受け
取った。

1年が過ぎて、ウチは生きる屍同然やった。
あかりの死を受け入れるようになったんは、ウチが「宇宙撫子」の
タイトルを獲得した時や。

そんな時や。ウチのかーちゃん、つまり、クリスと出会ったんは。
ウチのかーちゃんはウチの全てを変えたんや。

ウチ、その事をハッキリ憶えとる。
それは、衛星での2年目の時、変なノスタルジーから4000mリレーを
走って完走すると、かーちゃんがごっつ綺麗な服装で優しい笑いを浮
かべてウチに歩み寄って来たんや。

かーちゃんの目は優しさに溢れとった。
その光景、ウチは前に一度見た事がある。
その光景にウチは衝撃を受けたんや。
その事が、あかりと競争した見たいや、って、ウチは感じたんや。

その時や、かーちゃんがウチの名前を軽快な声で呼んだんや。
そんで、もしウチが、私と勝負する気があるのなら、と尋ねて来た
んや。

無論、ウチはその挑戦を受けた。
それに、ウチは最初の1年を棒に振っとたしな。

ウチには怒りの気持ちは、もうあれへんかった。
正に圧倒された、ウチが挑戦を受けるなんてな。

かーちゃんはウチに言った。
自分が2年生である事、そして、ある1つの理由の為に最近、衛星に
戻って来た事を。

ウチはかーちゃんに、その理由を聞いた。
そして、かーちゃんはウチが屍だった日々を憶えとる、と言ったんや。

「私は、お前の為に、ここに居る。」

その言葉を聞いて、ウチはショックを受けた。
ウチは歩いてくるかーちゃんに対して何んも喋る事が出来んかった
んや。
そんで、トラックの端の方に一緒に行くと、立ち止まって、笑い、
それで言ったんや。

「一乃、私は、お前と一緒に走りたいんだ。一緒に神の光を見たい
のだ。その時、私達二人が、どうしてこうなったか、を分かるだろ
うからな。」

そんでもって、一年後、ウチらは結婚したんや。

その事を告知したら、皆、ウチらが気がふれたんとちゃうか、とか
冗談ちゃうか、とか考えた見たいやな。まあ、誰もが、柳田一乃と、
クリス・クリストファが結婚した日にゃ、世界の終わりだ、と考え
とったんとちゃうかな?

当日はウチら以外、友達は誰も来んかった。

唯一、来てくれたのは、驚いた事に、あかりのとーちゃんの神崎大
左ェ門だったんや。ウチらの昔の教官は、笑い、今は新しい生活を
してる事をウチらに告げたんや。

そして、その時、奥さんの巴さんが妊娠してる、って事もウチらに
言ったんや。

ウチ、その事を聞いた時の気持ちを、どう説明したらいいか、本当
に分からんかったんや。同時に、複雑な気持ちになったんや。

その時、クリスがウチの手に触れて、笑って言った事、ウチはキチ
ンと覚えとる。

「生まれてくる子はあかりじゃない。あかりにはなれないんだ。
神崎あかりは一人しか居ないんだ。それに、私達がどんなにあかり
に戻って欲しいと思っても、彼女は戻ってはこないんだぞ。」

ウチはその言葉に頷く事しか出来んかった。
教官は、その言葉に同意して笑った。それで、そんな奇跡は、もう
二度と繰り返す事は出来ないと言ったんや。

それから、教官と巴さんは自分の子を「のぞみ」と命名したんや。

そんで、ウチらは「私達のあかり」と命名した。

ウチら2人、ウチとクリスとの生活が始まった。ウチらの生活は満
ち足りた物やった。そんで、数年が過ぎていったんや。
ウチら、お互いを愛し、あかりへの想いも忘れんかった。

のぞみを乗せたロケットが大学衛星へ向かうのを見た時は、ウチの
人生で最も誇りに感じる瞬間やった。ウチ、この事を絶対に忘れへ
ん、と確信したんや。

それから一年後、のぞみが「宇宙撫子」の称号を得るのを見届けた
時は、ウチ、クリスを見つめて、笑えてしまったんや。

クリスの習性やろか、クリス、ウチを見つめた。
そして、困惑した表情でウチを見つめて、尋ねたんや。
「愛って、何なのかな?」

「あんた、アホちゃうか。」
ウチ、全てを失ったみたいに、愛情の欠片も無い言葉で言ったんや。
「のぞみはウチら始めて競争した時みたいやったで。」

クリス、ウチの言葉の意味を考えとったんやろか、黙とった。
そんで、ゆっくりと満面の笑みを浮かべて言ったんや。
「お前は正しい。素晴らしい観点じゃないのかな?」

ウチ、クリスが言葉を選んでからかった、のを記憶しとる。
でも、最後はクリスと性があったんやな。

ウチとクリスは、にやりと笑い、自分の力と制服で擦り切れた「私達
のあかり」の腕を握り、彼女を自分の家に連れってたんや。ウチ、そ
の、一部始終を見届けたんや。

それを見とったら、ウチ、幸せな気分になったんや。

同時に、ウチは、予期せん所で再び見つけた幸福が全部終わった、
と認識したんや。

本当、人生ちゅうのは面白いもんや。

(終わり)

(作者後書き)
柳田一乃は「大運動会TV版」(Battle Athletes Victory)のキャ
ラクターです。
私は、このシリーズの最終巻(訳者注:第8巻の事と思われます。)
を見て、このシリーズが大好きになりました。
しかし、一乃とクリスがあかりを愛しているのに、その愛ゆえ、表面
的にはお互いを嫌っている、と言う事に衝撃を受けました。
そこで、私はこの2人がカップルとならないか、と考えみたのですが、
そうなるには、あかりが死ぬしかない、と結論づけました。
(訳者注:極論ですなぁ〜。主人公、殺してどーする。)
彼ら2人の愛は3人組の愛と同等である、と言う様に終わらせました。
私はこの作品を書くにあたり、紆余曲折が有りましたが、WAFF的要素
(訳者注:WAFFとは"Warm And Fuzzy Feeling"の略)を取り入れて書
いたつもりです。でも、最後に断言しておきますが、私は何時か、
あかり、一乃、そしてクリスの3人組の作品を書きたいと思っていま
す。そう、私は風変わりな人間と自覚しているのですから。


Created by alpha7 at November 11st,2001