「美星事件」第2章
「窓の外を見てみたら」


[場所:鷲羽の研究室]

別次元の深く、自称「最も宇宙で賢い(最も「可愛い」と言う事は別と
して)科学者」は、自らデザインした奇妙で巨大な仕掛けの中心にしっ
かりと座っていたのだった。
次元物理学や、普通の数学、空間工学の教義と言ったありふれた物では
無く、それらの理解を超えた装置が動いていたが、その装置の機能は、
簡単に説明出来るものだった。
つまり、その装置は次元をスキャンし、ありとあらゆる異常現象の位置
を特定する事が出来たのだった。
そして、その装置は50もの異なった次元との通信装置としても機能し
たのだった。

「....それで、私が言いたいのはね。ゾァ。」
鷲羽は言った。
「こんな旧式の技術で貴殿の惑星で利用するだけの量のエネルギーを生
み出すって事は出来ない、って事なのよね。」

紫色の髪の異星人は言った。
「さて、貴方はとても利口なのだね。それなら、私が使うべき技術とは
何なんだね?これは、共和国建国の為の一番の方法なのだよ。」

鷲羽は自分の顎を撫ぜ、深く考えてから言った。
「言いたい事はね....もし、貴殿が'命の花'付いての情報と詳細を送っ
てくれればね、それから生体エネルギーを獲得して利用するシステムを
考えるのに、とても有り難いって事なのよ。」

異星人は満面の笑みを浮かべて言った。
「その言葉を待っていたよ。鷲羽。その2つに付いては、貴方に全て教
えよう。私の持つデータを集め、それを、このチャンネルを経由して送
る様にする。」

鷲羽は答えた。
「待っているわ。ゾァ。通信終了。」

鷲羽はチャンネルを閉じ、椅子にもたれ掛かると、ため息をついた。

考え事をしていると、鷲羽はコンピューター画面のオレンジ色の点滅に
気が付いたのだった。
「あっ....ここで何か起きたのかしら?」
鷲羽の指がコンロールパッドの上を踊り、更に笑いを浮かべた。
「時空の歪み?すぐに見えなくなったけど....それに、星系の彼方で発
生したとは考えられないわね。何で発生したのかしらね?」

彼女は頭脳を働かせる事に大いに喜びを感じ、歪みの分析を始めたのだ
った。

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[場所:美星の宇宙船]

メインスクリーンには巨大な石鹸の渦が映し出されていた。それは、表面
が7色に変わる物であった。
その渦は、その向こうにある星々を覆い隠し、宇宙空間に捕らわれている
様であった。

砂沙美は言った。
「オオーッ!とっても綺麗だねー。」
砂沙美は美星の方を振返って言った。
「ねえ、あれ何?」

「私、分からないわ。」美星は認めた。
だが、笑いを浮かべて言った。
「でも、あまりに綺麗だから、逆に危険って事よね?雪之丞?」

雪之丞は報告した。
「局地的に発生した時空の歪みでござるな。危険な放射性物質の反応は無
いでござるし、あの歪みの外の通常空間に付いては正常でござる。」

美星はアクビをし、首を縦に振って尋ねた。
「じゃあ、あれは危険じゃない、って事ね?」

雪之丞は答えた。
「明らかではござらん。しかし、第167地区第9区域Jの異常現象をギャラ
クシーポリス本部に速やかに報告すべきでござるな。」

美星は手を振って答えた。
「本部への報告書を作成する時間はタップリあるわよ。」
美星は砂沙美と魎皇鬼に笑いかけて言った。
「一寸の間、見て楽しみましょ。」

だが、雪之丞が抗議した。
「しかし、美星殿!第167地区....」

美星は答えた。
「うん、分かったわ!」
美星は足を上げた。すると、その時、腰のキューブが外れ、床に落ちた。
「いけない!」と、美星は叫び、キューブを拾い上げたが、落ちた時に
コントロールパネルに当ってしまったのだった。
次の瞬間、エンジンの轟音がキャビンに鳴り響いた。

雪之丞は叫んだ。
「美星殿!何をしているでござるか?」

美星はコントロールパネルをジッと見つめ、尋ねた。
「何?どういう事?」

雪之丞は叫んだ。
「メインエンジンが始動したのでござるよ!あの渦の中に突入中でござ
る!」

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[場所:鷲羽の研究室]

鷲羽はデータがスクロールしている画面を見つめながら、しかめ面をし
ていた。
誰かが、或いは何かが、歪みの探査を妨害していたからである。
鷲羽は指を鳴らしながら、クスクスと笑っていた。
「それなら、自分の秘密から宇宙の偉大なる意志を守る事が出来るとで
も考えているの?」

鷲羽は、警報を切るなり、攻撃を加えるかと思われたが、それをしなか
った。
別の画面を呼び出すと、彼女は歪みに向かうギャラクシーポリスの宇宙
船を見つけたのだった。数え切れぬ程の回数、同型の宇宙船を彼女は修
理してきたが、その宇宙船が誰のものか、すぐ分かった。
「この世界の今起きている、この渦は何かしら?彼女は何処に行ったの
かなぁ....」

宇宙船が歪みに触れると、白い光が2つを覆った。
そして、光が消えると、歪みも美星の宇宙船も消えてしまったのだった。

鷲羽は、探査用プログラムを呼び出し、嘆いた。
「良くないね。明らかに、良くないね。」

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[場所:エンタープライズ号・ブリッジ]

「艦長日誌、宇宙暦46594.9。
我々はドジウス宇宙中継基地の修復を完了し、第221宇宙基地に向かって
いる。我々はロミュランとの中立地帯の近くを通過する事になる。中立地帯
では、ロミュランの動きは最近認められていないが、いかなる問題も回避
したいものである。」

ジャン・リュック・ピカード艦長は指揮官席に座り、日誌を閉じた。
そして、目の前のメインスクリーンを見つめて言った。
「ミスターデータ、第221宇宙基地までの所要時間は?」

黄金の肌のアンドロイド、データ少佐は振り向いて答えた。
「現在の速度ワープ6。36時間15分と41.2秒です。」

副長のウイリアム・ライカー中佐がピカードの隣に座って言った。
「秒の小数点は必要ないんじゃないのかな。自由時間を楽しみにしてたん
ですよ。修復作業ばかりじゃ心に穴が空きますからね。」

ピカードは答えた。
「それも我々の仕事の1つだよ。」

すると、大柄のクリンゴン人、ウォーフ大尉が報告した
「艦長、探知機が時空の歪みを捕らえました。方位196、マーク41です。」

それを聞くと、ライカーは言った。
「中立地帯の方向じゃないか。不運ですね。」

更にウォーフは報告した。
「中立地帯への侵犯行為は探知できません。」

ピカードはライカーに言った。
「君が退屈な仕事に付いて何か言うと信じていたんだが?」
更に、ピカードは足を上げ、データに言った。
「データ少佐、ピンポイントでその歪みを捕らえられるか?」

データはコントロールパネルに手を躍らせ、答えた。
「今、やっています。」
「艦長、探知機によれば、歪みはハラキン星系の方角に発生しており、現在
の位置から2.51光年先です。その地域からは放射物質は探知出来ません。」
更に、データはピカードの方を振り向いて言った。
「艦長、ハラキン星系は中立地帯の中にあります。」

ピカードは尋ねた。
「分かった。居住可能な惑星は?」

データは答えた。
「ありません。ハラキンはDクラスで赤色の小型の惑星です。その付近には
ロミュランの前線基地や宇宙基地はありません。」

ライカーは言った。
「秘密の前線基地と言う可能性もありますがね。ロミュランの何かの実験で
しょうか?それとも、事故?神のみぞ知る、って所ですね。」

ピカードもそれに同意し、答えた。
「あるいはな。もし、事故なら生存者を確認すべきだ。もし、中立地帯の中
で実験をしているのなら、同様に確認すべきだ。宇宙艦隊上層部もロミュラ
ンが何かやらかしているのなら、興味を持つ筈だからな。」

ライカーは笑いを浮かべ、答えた。
「分かりました。艦長。」

ピカードは自分の席に戻り、ウォーフに指示した。
「機関停止。ミスターウォーフ、クラス4の探査機を準備し、ハラキン星系
へ送れ。何が起きているのか見てやろうじゃないか。」
更にピカードは指示を出した。
「宇宙周波でメッセージを送れ。我々が停船しているのは中立地帯の中で発
生している異常現象を調査中の為だとな。」

「機関停止しました。艦長。」データが報告した。

「連邦の領域にいられるのは....これで終わりかな。」
ライカーは呟いたが、不幸だ、と言う感じでは無かった。

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[場所:美星の宇宙船]

「美星殿!美星殿、大丈夫でござるか?」

美星はコックピットに戻り尋ねた。
「何....何が起きたの?雪之丞?」

「我々は時空の歪みを通過したでござる。現在位置、特定不能。同様にギャラ
クシーパトロールタイムネットにアクセス不可能でござる。つまり、何時、何処
にいるのか特定不可能でござる。」

美星は目に涙を浮かべ、呟いた。
「それって、私達、迷ったって事?」
その時、砂沙美の笑い声が聞こえ、美星は叫んだ。
「砂沙美ちゃん!砂沙美ちゃん!何処にいるの?」

砂沙美は窓のそばから答えた。
「ここだよう。美星さん、外、見てごらんよ!綺麗だよーっ!」

美星は砂沙美にヨロヨロと近づいて言った。
「大丈夫?怪我してない?」

砂沙美は答えた。
「勿論!私、美星さんに言われた様に椅子に座ってたもん。それに、ベルトも
キチンと締めてたもんね。」
更に、砂沙美は満面の笑みを浮かべて言った。
「面白かったぁ。ねえ、何時もこんな事してるの?」

美星は答えた。
「ううん、何時もじゃないわ。何時もじゃ....」
美星は窓の外の赤色の惑星を眺め、すすり泣きながら言った。
「おやまぁ、ここ太陽系じゃないわ。」

「でも、綺麗だよね?美星さん?」

「私も....私もそう思うわ....」美星も認めた。
だが、頬には涙が流れ落ちていたのだった。

<第2章終わり>