「美星事件」第3章
「今、混乱してんの?」


[場所:エンタープライズ号・ブリッジ]

ウォーフが報告した。
「艦長。探査機がハラキン星系に入りました。全センサー、作動中です。」

これに対し、ピカードが言った。
「よろしい。さて、何が起きているか、見てやろうじゃないか。データ、ロミ
ュラン船の反応は?」

データは振返って言った。
「ありません。しかし、ハラキンの軌道上にエネルギーの放射が探知出来ま
した。」

ライカーはピカードの横に立ち、尋ねた。
「どんな種類の放射だ?」

データは分析を行い、答えた。
「低エネルギーのプラズマです。放射の程度は非常に散発的で、エネルギー
が制御出来なくなった状態と一致します。」

ライカーは笑いながら、尋ねた。
「漏れ穴から涌き出てるって訳か。それは何だ?」

データは答えた。
「目標の周りに形成されている、小さなニュートリノフィールドです。」

ピカードがデータに尋ねた。
「目標が確認できる位置まで探査機を接近させられるか?」

「分かりました。艦長。」

「それが何か、見てやろうじゃないか。スクリーンオン。」

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[場所:美星の宇宙船]

雪之丞は興奮しながら、ひょいと動いた。
「美星殿、システムの診断が完了したでござるよ。」
だが、答えは無かった。
「美星殿!美星殿!」

美星はコンソールの下にいた。
「こう言う本が欲しかったのよ!私、いつもこう言う....」

「美星殿、どうぞ!」

美星は頭を、ひょいと上げて言った。
「ウーン?なあに?雪之丞?」

雪之丞は答えた。
「システムの診断が完了した、と言ったのでござるよ。ダメージを受け
たシステムのリストも出来たでござるよ。」

「分かったわ。」

美星はコンソールの下から出てきた。
そして、「トロリアン・ロマンス」と言う小説本を自分の胸に隠すと、
尋ねた。
「ダメージはどんな具合?」

ズクリーンが浮かび上がり、緑色のスクリーンに各所のダメージ箇所が
表示され、赤く点滅しており、雪之丞が説明した。
「見ての通りでござる。ダメージ箇所は主要センサーネット、通信中継
機、及び武器システムでござる。」
そして、ダメージ箇所が拡大され、更に説明が続いた。
「又、航行システムもダメージを受けたでござる。」

胸から小説本が床に落ち、美星は尋ねた。
「修理可能なの?」

雪之丞は、もう一度頷いて言った。
「センサー、通信及び武器システムに付いては容易に修理可能でござる。
しかし...」
スクリーンが船の後方を拡大表示し、雪之丞は言った。
「航行システムは反応炉、及び磁気抑制システムの双方が致命的ダメージ
を受けており、修理不可能でござる。」

砂沙美は、隣の部屋からコックピットに入り、目を大きく開いて、尋ねた。
「それって、私達、遭難した、って事?」

魎皇鬼の目もキラキラと光り、「ミャ?」と鳴き声を上げた。

美星は本から顔を上げ、すすり泣きながら言った。
「遭難したの?」

「残念ながら、イエスでござる。」雪之丞は認めた。
「ここでは、航行システムの修理に必要な機材が見つからんのでござる。」

「いや!遭難なんて!いやよーっ!」美星は叫んだ。

「ミャー!ミャー!」
魎皇鬼が砂沙美の頭から降りると、砂沙美の足元で、はしゃぎ回った。

砂沙美は魎皇鬼を抱き寄せると尋ねた。
「何?魎皇鬼ちゃん?」
そして、砂沙美は言った。
「魎ちゃん、宇宙船になれるわ。多分、魎ちゃんが私達を元の世界に帰せ
るわよ。」

「拙者は犯罪者の助けを拒否する様にプログラムされておるのでござるが
....それが、唯一の選択になるでござるな。」と、雪之丞も認めた。

美星は涙を流しながら、再び、叫んだ。
「私達、遭難しちゃったわ!」

雪之丞は、更に付け加えた。
「もう1つ、別の問題が有るでござる。拙者も信じられないのでござるが
....我々は、もはや元の次元には居ないのでござるよ。時空の歪みを通過
した際、幾つかの次元を飛び越えたのでござる。」
スクリーンに、砂沙美でも読める速度で、データが表示された。
「センサーが故障するまでに記録したデータに拠れば、ここで停止する迄
に、少なくとも14の次元を飛び越えたのでござるよ。」

またも、美星は叫んだ。
「ああっ、何て事!私達、別の次元で遭難しちゃったわ!」
美星は自分の椅子にへたり込み、更に叫んだ。
「私達、もう戻れないんだわ!私、天地さんに二度と会えないんだわ!」
言葉を止めると、息切れをしていた。
そして、目を大きく見開いて、又、叫んだ。
「私、もう、自分の石鹸、手に入らないんだわ!」

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[場所:エンタープライズ号・ブリッジ]


ライカーは言った。
「ロミュランの船ではないな。」

データは頷いて言った。
「そうです。副長、あの形の船は過去及び現在のあらゆるロミュラン船の
デザインとも一致しません。又、連邦が現在までに遭遇した、あらゆる種
族の船のデザインとも一致しません。」

ピカードはドアの開いたターボリフトの方向を振返った。
すると、ブリッジに心理カウンセラーのディアナ・トロイがやって来たの
だった。
「カウンセラー、厄介事が転がり込んで来そうだぞ。」
ピカードはデータの方を振返って言った。
「生命反応は?」

データは答えた。
「探査機が船内に3体の生命体を確認しました。2体はヒューマノイド型
生命体です。」

トロイは、データの周りにいるピカードとライカーに合流し、尋ねた。
「3体目は?。」

データが答えた。
「特定出来ません。探査機に拠れば、3体目はシリコン生命体であるとの
反応が出ています。しかし、探査機では、これ以上の確認は不可能です。」

ピカードが叫んだ。
「シリコン生命体だって?」
そして、更に言った。
「これは面白い事が転がり込んできたな。」

ピカードはライカーとトロイに合図し、3人は各々の席に戻った。
そして、ピカードが尋ねた。
「意見は?」

まずは、トロイが答えた。
「私は、あの船を助けるべきと考えます。彼らは明らかに遭難しています。」

だが、ライカーが指摘した。
「中立地帯の中に入るのは、条約違反では?ロミュランの宣伝の様な気も
します。出来れば、ロミュランとの対決は避けるべきです。」

ピカードは頷き、言った。
「なるほどな。だが、我々には、遭難したあらゆる船を救助すると言う任務
もあるからな。」

すると、ウォーフが言った。
「艦長、あれはロミュランの罠の可能性もあります。奴ら、過去に遭難信号
を使って、船をおびき寄せた事がありますから....」

だが、データは言った。
「副長。探査機に拠れば、あの船の通信システムはダメージを受けています。」
そして、ライカーの方を振返り、言った。
「主要航行、及び武器システムに付いても同様です。」

それに対し、ウォーフは言った。
「罠の為には、無力な船は完全な餌になるのではないですか。そうすれば、
救助チームのガードも甘くなりますからね。」

ライカーが指摘した。
「それが罠なら、面白いじゃないか。もし、そうで無いのなら、彼らは本当
に事故に遭った事になるんだぞ。」

ピカードは自分の顎を撫ぜ、同意して言った。
「正にその通りだな。私は後者の方であると考えたい。ミスターデータ、
ハラキン星系にコースをセット。ワープ6。」

ウォーフが自分の持ち場から言った。
「艦長?」

ピカードが答えた。
「警戒警報だ。ミスターウォーフ。念の為にな。」

「コース、セットしました。」

「発進」

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[場所:美星の宇宙船]

砂沙美は、美星に嘆願した。
「美星さん、落ち着いて!まだ、元の世界に戻れなくなった訳じゃ無い
んだもの。」

涙が頬を濡らしていたので、美星の声は涙声だった。
「でも、....グスン....雪之丞が言うには、....グスン....私達、....
グスン....他の次元に捕らわれちゃったって!....グスン」

だが、雪之丞は指摘した。
「その通りでござる。美星殿。拙者、元の次元には居ないと言ったでご
ざる。でも、0.25%の確率で、元の次元に戻れるチャンスもあるのでご
ざるよ。」

砂沙美が言った。
「ほらね?」

魎皇鬼も、砂沙美の脇で頭を上げた。
「ミャ?」

美星は涙を拭き取り、鼻をすすって、尋ねた。
「本当?それ、本当なの?雪乃丞?」

雪之丞は答えた。
「拙者はウソを言う様にはプログラムされておらんでござるよ。美星殿。」

すると、コックピットに警報が鳴り響いた。
美星は悲鳴を上げて、自分の席からずり落ちた。
「今度は何?」

雪之丞は答えた。
「ダメージ制御システムがセンサーグリッドの修理を完了したでござる。
現在位置特定の為、星系を検索中でござるよ。」

「あら。」
美星は溜息をついた。そして、砂沙美の方を振返り、言った。
「貴方は本当に正しかったわ。砂沙美ちゃん、心配する事は無いわ。
有難う。」

「ミャ!」

「そして、貴方もね。有難う。魎皇鬼。」
美星は魎皇鬼の頭を撫でて笑った。

だが、雪之丞が叫んだ。
「美星殿!未確認宇宙船がこちらに接近中でござる!」

<第3章終わり。>