「美星事件」第4章
「指揮官の元へ私を」


[場所:美星の宇宙船]

「オーッ」砂沙美は近づく宇宙船を眺めて言った。

「大きいねー。」魎皇鬼はそれを聞くと鳴き声を上げた。
「でも、カッコイイね。魎皇鬼ちゃん。」と付け加え、笑った。

「ウーン。」美星は嘆き、尋ねた。
「大きいわねぇ。雪之丞、あの船、認識できた?」

だが、雪之丞は答えた。
「駄目でござる。美星殿。ギャラクシーポリスに登録されている船で、あの様
な形の船は確認できんでござるよ。」

「何か字が書いてあるよ!」砂沙美は叫び、スクリーンに近づいた。
「ねえ、何て書いてあるの?」

雪之丞は答えた。
「英語でござるな。」
そして、スクリーンに「NCC−1701D、USSエンタープライズ」と文字が
浮かび上がった。

「英語?」
美星は尋ねた。
「じゃあ、あの船は地球の船、って事?私、スペースシャトル以外の宇宙船は
知らなかったわ。」
更に、美星は間を置いてから言った。
「地球の船じゃない、とも考えられる訳よね?つまり、地球人は別の星に行く事
は出来ないし、あんな宇宙船を造る事も出来ない、よね?」

雪之丞は答えた。
「美星殿、あの船について、推測するのには情報不足でござる。あの船に書かれ
ている言語が英語でも、現在の地球の技術では、あのような船を建造出来ない。
多くの矛盾があるでござるよ。」
更に、船腹に書かれたシンボルマークが写し出され、
「'惑星連邦'と言う名前は惑星間政府の登録にも無いでござるよ。」

「異星人!」砂沙美は叫んだ。
「私、ずーっと前から異星人に会って見たかったんだ!」

だが、美星は注意を促した。
「彼らは危険かも知れないわよ!砂沙美ちゃん!つまり、彼らは海賊かも知れ
ないし、とても好戦的かも。もしかすると、狂信的集団かも知れないし、人食い
人種かも。でも、多分、惑星の売人だわーっ!」
美星は頭を抱えて言った。
「そんなのだったら、最悪だわーっ!」

砂沙美は呆れ顔で言った。
「えっ?そんな事を考えてるの?」

美星は右往左往し始め、叫んだ。
「どうしよう?どうしよう?」

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[場所:エンタープライズ号・ブリッジ]

「艦長。生命反応が3体確認出来ました。」
データは報告した。
「2体はヒューマノイド型、1体は小型の無機生命体です。」
更に、報告は続いた。
「無機生命体については、現在、連邦が確認した無機生命体パターンの
いずれにもマッチしません。」

ライカーは尋ねた。
「どれだけのパターンが確認されているんだ?」

データは答えた。
「7つです。副長。」

「分かった。」ピカードは答えた。
更に、ウォーフに指示を出した。
「ミスターウォーフ。引き続き、この付近をスキャンしてくれ。ロミュラン
の船が近づいている様なら、すぐ知りたい。」

ウォーフは答えた。
「分かりました。」

ライカーは尋ねた。
「ミスターデータ。彼らと話せるか?」

データは答えた。
「不可能です。副長。彼らの通信システムは機能していません。」
データは言葉を止め、
「しかしながら、私がロボットシステムを操作して、彼らの通信システムを
修理する事が出来ますが。」

ライカーは頭を掻き、尋ねた。
「データ。そうするのに、どれ位の時間がかかる?」

データは答えた。
「約1時間です。副長。」

ライカーはピカードを見て言った。
「長すぎますね。」

ピカードは首を縦にふり答えた。
「同感だな。副長。」

ピカードはトロイの方に振返ると尋ねた。
「カウンセラー、あの船のクルーから何か感じるか?」

トロイは暫く考えて答えた。
「あの船には3つの異なった人格が存在しています。1つは全く落ち着いて
いて、はしゃいでいて、とても好奇心に溢れています。何と言えば良いのか
分かりませんが、子供心そのもの、と言ってもいいでしょう。もう1つは
限界....いえ、パニックの限界を超えています。この人格は感情の起伏が激
しいので、1つの人格として捕らえるのは難しいですね。イメージがゴチャ
ゴチャになっているので...」

それを聞くと、ライカーが意見を述べた。
「宇宙で事故に遭ったが、それを簡単には受け入れられない、って事じゃ
ないのかな。」

トロイは笑い、付け加えた。
「2つについては感情を持った人間です。ただ、1つは何かに怯えている様
です。」

ピカードは尋ねた。
「3つ目は?」

「間違い無く、人間ではありません。」とトロイは認め、更に言った。
「それが何かと特定するのは困難ですが....ただ、それが空腹である、と
言う事を感じました。」

ピカードは言った。
「空腹だって?何で、空腹なんだ?」

トロイは少し考えると言った。
「確信は出来ません。でも、その性格は殆ど空腹によって構成されていると
思われます。」

ピカードは頷き、そして言った。
「さて、ここでジッとしている事も、彼らの修理が終わるのを待つ事も出来
ないな。救助活動であれ、そうでなかれ、中立地帯の中でロミュランに見つ
かるのは避けたい。」

ライカーは提案した。
「上陸班を送りこみましょう。」

だが、ウォーフは言った。
「副長。あれはロミュランの罠の可能性もあります。上陸班を送りこむ事に
は反対です。」

ライカーは尋ねた。
「なんでそんな事を?あの船のクルーをこちらに転送して収容しろと?」

ウォーフは頷いて答えた。
「そうです。そうすれば、彼らの目を塞ぐ事が出来ますし、転送装置で武器
や爆発物を発見し、無力化できます。」

ピカードは少し考えて言った。
「同感だ。副長、第2転送室に行って、彼らと会いたまえ。ドクター・クラ
ッシャーも向かわせる。クルーが怪我をしているかも知れないからな。」

ライカーは答えた。
「分かりました。艦長。」
足を上げ、ウォーフに言った。
「ミスターウォーフ、保安チーム連れて第2転送室へ行け。」
更に、ターボリフトに乗り込んだ。

「ライカーからドクター・クラッシャー。」

「クラッシャーです。」

「第2転送室で会おう。未確認船からクルーを転送して収容する。怪我人が
居るかも知れない。」

「今、向かっています。」

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[場所:美星の宇宙船]

美星がわめいた。
「どうして、あの船、何もしないのォ?」
そして、自分の手で顔を覆い、更にわめいた。
「ジッとしたままじゃない!」

砂沙美が言った。
「あの船、多分、こっちが何もしないのを確かめてるんじゃないのかなぁ。」

雪之丞も言った。
「拙者も砂沙美殿と同意見でござる。あの船からは敵対行動は無いでござる
しな。これだけ長い間、何も無いのでござるから、あの船には敵意は無いで
ござるよ。」

「それなら、どうして何も言ってこないのよォ?」
美星はさけんだ。

雪之丞は答えた。
「美星殿、我々の通信システムはダメージを受けているでござる。まだ、
修理は終わっておらんでござるよ。その上、当初考えていたより、ダメージ
が大きかったでござる。少なくとも、あと1時間は使い物にならんでござる
な。」

「1時間!あの船と通信するのに。1時間も待たなくちゃならないの?彼ら、
なんて言ってくるんだろう?」
美星は又も叫び、涙目で雪之丞を見つめた。
「どうしよう?」

「美星さん?」
砂沙美は尋ねた。だが、美星は砂沙美に全く注意を払っていなかった。
「美星さん?」
更に、砂沙美は優しく言った。

すると、美星は震えた声で言った。
「私、傷ついたわ。」
美星の目はチラッと砂沙美を見た。そして、深呼吸をすると、目を見開き、
エンタープライズの映ったスクリーンをチラッと見た。
「恐れる必要は無いわ。砂沙美ちゃん。」美星は優しく言った。
すると、突然、大声で叫んだ。
「私はギャラクシーポリスの一員よ!私達はプロ魂と落ち着きを兼ね備え、
いかなる状況もくぐり抜けて行く様、訓練されているのよ!」
今度は笑い出し、更に叫んだ。
「恐れるモノは何も無いわ!何も!」

砂沙美は引きつって笑い、尋ねた。
「本当に?」

美星は叫んだ。
「勿論!こんな事、私が処理するわ!私が....」
そして、美星は自分の身なりをチラッと見て、又、叫んだ。
「こんな格好じゃ、異星人に会えないわ!新しい制服に着替えなくっちゃ!」
美星はレクレーションルームに走り、「すぐ戻るわ!」と叫んだのだった。

「ホゥ」と砂沙美は溜息をつき、ゆっくりと頷いた。

突然、魎皇鬼が怒りながら、砂沙美の頭の上に飛び上がった。
「どうしたの?魎皇鬼ちゃん?」

ブンブンと言う音がコックピットに鳴り響き、砂沙美は胃の辺りがムズムズし
始めたのだった。

雪之丞が叫んだ。
「この船へのエネルギーの照射が探知されたでござる!」

砂沙美は美星の部屋に走り、叫んだ。
「美星さん!美星さん!何か、起きてるよ!」

「何?」美星はそう答えると、その直後、どこかに打ちつけられた様な感覚に
襲われたのだった。

「オッ!」美星は驚いた。
砂沙美はキラキラした光のフィールドに包まれていた。
砂沙美のムズムズ感は全身に広がって行った。
そして、コックピットは眩い白い光に覆われ、やがて、光は消えて行った。

雪之丞は突然、1人になってしまい、叫んだ。
「砂沙美殿?美星殿?美星殿!?」

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[場所:エンタープライズ号・第2転送室]

転送主任が言った。
「大尉?武器を発見しました。フェザーより強力です。」

2人の保安要員を自分の前に立たせたウォーフは尋ねた。
「クルーは武装しているのか?」

転送主任が答えた。
「いいえ、していません。エネルギーはチャージされていますが、武装はして
いません。」

ウォーフはライカーを見て頷き、言った。
「武器のエネルギーを空にしろ。」

「了解。」
転送主任はコントロールパネルを操作した。
「準備できました。」

ライカーが指示した。
「彼らを転送しろ。」
そして、ウォーフと保安要員に言った。
「フェーザーを撃つなよ....ここは、友好的に行こうじゃないか。」

ウォーフはしかめ面をして、ゆっくり頷き、答えた。
「分かりました。副長。」

やがて、転送フィールドが消え、エンタープライズのクルーは、未確認船のクルー
と初対面する事になったのだった。

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[場所:エンタープライズ号・第2転送室]

美星は不意に自分がもはや、自室に居ない事を認識させられたのだった。
数秒後、彼女は見知らぬ人々の注目の的になっている事にも気が付いた
のだった。
彼女は人々の視線を避けようと必死になり、叫んだ。
「ど....ど....どうしたの?」
そして、後ずさりをしたのだった。

砂沙美が囁いた。
「美星さん!上、何も着てないよ!」

「何?」美星は言い、下を眺めた。そして、彼女は砂沙美の言葉を認識させら
れたのだった。
そして、彼女は思い出した。つまり、彼女は自分の服の束から服を取り出して
いた。そこでは、シャツも、靴下も何もかも脱いでいたのだ。
脱いでいた....それを思い出すと、彼女はわめいた。
「きやーーーーーーーーーっ!」

砂沙美は美星の腕が動きやすい様に転送パッドから飛び上がった。
すると、ライカーが砂沙美に言った。「やあ。」

魎皇鬼も驚き、砂沙美の頭の上から鳴き声を上げた。「ミャ。」

ライカーは喉を撫ぜ、前に進み出た。そして、転送パッドをチラッと見つめて
言った。
「やあ。何の知らせも無く、ここへお連れした事をお詫びします。」

美星は、自分をカバーしようとして、シャツを引っ張り、ボケた動きをしていた。
「おやまぁ!おやまぁ!これは、とってーーーも恥ずかしいわ。ああっ、何て事。
どうして、これが着れないの?先週は着れたのに。私、そんなに太って無いわよ!
おやまぁ!」

ライカーは目をそらし、言葉を続けた。
「....でも、我々が貴方達とコンタクトを取るには、他に方法が無かったんです。」
そして、ライカーは、真直ぐ前を見て言った。
「私はウィリアム・ライカー副長。貴方達は連邦の宇宙船、エンタープライズに乗船
されました。」

砂沙美は手を差し出し、言った。
「始めまして。砂沙美です。」

ライカーは彼女の手を握り、握手して言った。
「砂沙美?」

砂沙美は自分の頭の上を指差して言った。
「そして、これが魎皇鬼。」

魎皇鬼も笑い返し、「ミャ!」と鳴き声を上げた。

ライカーは笑いを浮かべて言った。
「こちらも始めまして。」

転送パッドでドタバタしている女性を見ながら、ライカーは尋ねた。
「君のお連れさんは誰かな?」

砂沙美が答えた。
「美星さんです。ギャラクシーポリスの刑事さんなんだよ。」

ドクター・クラッシャーが、医療用トリコーダーを動かしながら、美星が立ちあがるの
を見届け尋ねた。
「彼女、何?」

砂沙美が答えようとしたが、美星は転送パッドで動き回り、パッドの淵から滑り落ち、
「キャーーッ」と言う声と共にパッドから転げ落ちた。

「危ない!」ライカーは砂沙美を掴み、脇に身をかわして、叫んだ。

美星は、金きり声を上げて、倒れ込んだ。そして、ウォーフと2人の保安要員とぶつ
かった。すると、4人は転送室のドアの方向に突き飛ばされた。そして、4人の人山
から、女性の声で「オッ」と言う嘆き声がした。

ライカーは足を上げ、ウォーフに掛け拠って言った。「ウォーフ!」

2人の保安要員が、ウォーフが息をしているのを確かめて、起き上がった。
美星(トップレスのままだが)はウォーフの上に倒れ込んでいた。
ウォーフは金髪の束を吐き出すと、うめいた。
「ここです。副長。」

「大尉、大丈夫?」ドクター・クラッシャーは、医療用トリコーダーを持ってウォーフ
に寄り添って言った。

「私は大丈夫です。ドクター。」そして、ウォーフは怒鳴った。「会って直ぐ....直ぐ
....あの女、私を突き飛ばしやがった!」

「美星さん?」ライカーは、美星の肩に優しく手を置いて言った。

美星は、頭を上げて、周りを見渡し、「フーン」とこもって言った。
「何が起きてるの?」そう言うと、ウォーフと目が合い、「ウーン....」と倒れ込んだ。

砂沙美は、美星の腕を引っ張って言った。
「美星さん!美星さん!起きてよ!」

美星は、後ろにウォーフが立った砂沙美を見つめて言った。
「何?オッ、オオ、ハイ。ごめんなさい。本当にごめんなさい。」
そして、ゆっくりと足を上げたのだった。

「美星さん。」砂沙美は、美星にシャツとベストを差し出して言った。
下を見ると、美星は顔面蒼白になり、砂沙美の手からシャツとベストを急いでとり、自分
の胸を隠した。
「おお、これはとっても恥ずかしいわ。」

ドクター・クラッシャーは美星に優しく言った。
「美星....さんね?私はビヴァリー・クラッシャー。この船のドクターよ。貴方を医務室
に連れて行きたいと思ってるの。貴方が、心身共に異常が無いか確認したいから。」

「ハ、ハイ。」美星は、ゆっくり頷き、答えた。
「始めに何か着る物、有ります?」

「当然ね。」
ドクター・クラッシャーは笑いを浮かべ、砂沙美の方に振返り、言った。
「貴方も一緒に来ない?」

「いいの?」
砂沙美は、目を見開き、尋ねた。
「本当に?」

「勿論よ。」
ドクター・クラッシャーは美星の方を振返り、シャツを上げて尋ねた。
「いいかしら?」

「そう思います。」美星は答えた。

砂沙美はライカーに手を振って言った。
「バイ、バーイ!ライカー副長。」

ドクター・クラッシャーが転送室を去った後、ライカーは、ウォーフの方を振返り、ユニフ
ォームに付いた美星の髪の束を取り去って、笑い、尋ねた。
「大尉、まだ、ロミュランの罠だって思ってるのか?」

ウォーフはライカーの方をチラッと見て、答えた。
「私は決めかねています。副長。」
そして、口に付いた長い髪を取り去って言った。
「ロミュランが、こんな戦術にうったえるとは信じがたいのですが....例えば、あの女性。
彼女は、とても....とても....」

「とても、何だ?」

「悩ましいですね。」

ライカーは笑いを隠し、そして、言った。
「何が起きるかを見て、待って見るべきなんだな?大尉。」

<第4章終わり>