「美星事件」第8章
「美星、再びエンタープライズへ」


[場所:ロミュラン戦艦エヴァシュ・ブリッジ]

「あの女、何をした?」
キラ艦長の悲痛な声が、部屋中に響いた。

耳を塞ぎながら、マリク副長が言った。
「あ....あの女、ワープコアを船外に射出しました。」

沈黙がブリッジを包んだ。
「それで、どうして、あの女にそんな事が出来たんだ?」

マリクは機関主任をチラッと見つめた。
「私が言える事は、あの女はコマンド承認コードを手に入れ、射出シークエンスを
作動させた、と言う事です。」

「分かった。」
沈黙が又、ブリッジを包んだ。
「工作員は捕えたのか?」

「はい、艦長。」
彼は、軽蔑する笑いを浮かべた。
「はい、我々の手の中に有ります。」

近くの部屋の中から、すすり泣く声が聞こえて来た。
「どうして、こんな事になったのよォ?....つまり、その....オッ、これは、とっ
ても恥ずかしい事だわ....つまり、その....私は、こんな事をしに来た訳じゃ無い
わ。」
彼女は笑いを浮かべた。
「浮いている椅子で座ってるのは難しいわ....でも、私を見てる貴方なら....」
ロミュラン人に囲まれ、ブツブツと言った。
「オッ....ウン....これは、とっても恥ずかしいわ。ウン....どうすれば戻れるの?
ねえ?」

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[場所:エンタープライズ号・ブリッジ]

「彼らどうして、ワープコアを射出したんだ?」
ライカーが疑い深く、尋ねた。

「不明です。」
データがウォーフの背後にある技術セクションから答えた。
「センサーにはコアの不具合は記録されていません。」

ライカーがしかめ面をした。
「では、彼らが射出したのでは無いと?」

「そうです。副長。」
データが答えた。
「私が指摘できる事は、ミス美星は、あらゆる側面において不注意な行動を取る、
と言う傾向があると思われます。」

「彼女は厄介者ですよ。」
ウォーフが唸った。

データは言葉を止め、頷いた。
「彼女のエヴァシュ艦内での行動の結果、エヴァシュのワープコアが射出された
のでしょう。」

ライカーは、ヴィバリーと砂沙美をチラッと見て、トロイを見た。
「ディアナ、何か感じているか?」

トロイは暫く考えた。
「感情を感じ取るのは難しいわね。」
彼女は認めた。
「確実に言える事は只1つ、エヴァシュのクルーは相当混乱してる、って事ね。」

「全体の状況は、もっと混乱してる、って事だな。」
ピカードが言った。
「転送室、美星の座標をロックしたか?」

「ロックしてあります。艦長。」
転送主任が報告した。
「エヴァシュのパワーグリッドで起きている混乱に座標をロックしました。あと、
数分で終わります。」

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[場所:ロミュラン戦艦エヴァシュ・ブリッジ]

ホッとした表情の美星が、トイレからフラフラと出てきた。
「有難う。本当に有難う....気分がスッキリしましたわ。」

「私も嬉しいよ。」
マリクはそう言うと、2人のガードに指示した。
「こいつを元の場所に返すな。」

「何、するのよォ?」
美星は2人のロミュラン人に連行されながら、言った。
「私、トイレは拭いたわよォ!本当よ!」

マリクは目を細めた。
「そんな事はどうでもいい!」
彼は吐き捨てた。
「貴様は、無断で本艦に乗り込んだ....」

「偶然だったのよ!」
美星は泣き叫んだ。

「本艦の装備にダメージを与え....」

「ドアが全部開いたのよ!」

「....機関室員を混乱させ....」

「私、迷ったのよ!」

「....そして、本艦を無力化した。」

「私、トイレを探してたのよ!」
美星は目に涙をためて、叫んだ。

「貴様、連邦の工作員だな!」
マリクは吐き捨てた。

「違うわ。私はギャラクシーポリスの一員よ。」
美星はふくれ面をした。
「キラ艦長にも、申し上げましたけど....艦長に聞いて。艦長なら、私が
正直だって、保証してくれるわ。」

「黙れ!」
マリクはののしった。
「これ程迄、我々を苦しめた連邦の工作員など、信じる事が出来るか!」

「でも、私、その工なんとかじゃ無いわ!私はギャラクシーポリスの一員よ!」
美星は目をパチクリとさせた。
「正直に言ってるのよォ。」
すると、美星の目が大きく見開かれた。
「変な気分....」
彼女は、自分の腹を押さえて、呟いた。

「貴様の気分など、構っていられるか。」
マリクは、ぶっきらぼうに言った。
「私は....」
マリクは美星がキラキラとした光のフィールドに覆われているのを見て、目を
パチクリとさせた。
「チッ!こいつを処刑しろ!」

美星は鼻をすすった。
「それって....」

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[場所:エンタープライズ号・ブリッジ]

メインスクリーンの前に転送フィールドが形成され、その中には美星が立っていた。
「....とっても失礼よ。」
彼女は目をパチクリをさせた。
「あら、こんにちわ。皆さん。」

「美星さァん!」
砂沙美は美星に駆け寄り、叫んだ。
「戻ってきたのね!」

「そうみたいね。」
美星は周りを見渡し、答えた。
「不思議な感覚の転送は、これで4度目だわ。」

ライカーが首筋を撫ぜながら、歩み寄った。
「ミス美星、大丈夫か?」
彼女は頷いたが、ライカーは、しかめ面を僅かに浮かべていた。
「向こうにいる間、何も....変な事は起きなかったか?」

美星は暫く考え、言った。
「ウーン....さて、トイレを探すのに時間がかかりましたわ。」

「何?」
ライカーは出し抜けに言った。
彼は、ピカードを見つめると、ピカードは目を上げた。
ライカーは美星の方に振り返ると、言った。
「問題ないな。」

ピカードは自分の上着を下に引っ張った。
「美星、すなまないが、ドクター・クラッシャーと共に医務室に行ってくれないか。
君が怪我をしていないか、キチンと確認したいからな。」
彼は、ヴィバリーをチラッと見つめた、ヴィバリーは驚きを隠そうと必死だった。
「そうだな?ドクター。」

ヴィバリーは溜息をついた。
「そうね。艦長。」
そう美星に向かって言った。
「こちらにどうぞ。」

「私も行けるかしら?」
砂沙美が尋ねた。
「魎ちゃんが、どうしてるか見たいもん。」

「いいわよ。」
ドアの開いたターボリフトに足を向けながら、ヴィバリーは笑って答えた。
「こちらへ。」

ピカードはライカーの方に振り返った。
「副長、彼らに付いてやっていてくれないか。もし、何か起きたら、私に知らせる
様に。」

ライカーは頷いた。
「分かりました。艦長。」

「もう1つある。」
ピカードは静かに付け加えた。
「絶対に、美星に艦内をうろつかせるな。」

ライカーはしかめ面をした。
「厄介事が起こるとでも?艦長。」

「そうじゃない。」
ピカードは頭を横に振って、言った。
「だが、用心に越した事はなかろう。エンタープライズのワープコアが漫然と宇宙に
浮かんでいる、なんて言う光景は見たくも無いからな。」

ライカーは笑いを隠した。
「分かりました。艦長。彼女を見張っていますよ。」

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[場所:エンタープライズ号・医務室]

砂沙美は、目を見開き7色の液体で満たされた透明なシリンダーに近づき、口笛を
吹いた。
「これ、何?」
彼女は尋ねた。

ヴィバリーは、美星ををスキャンしながら、トリコーダーから目を上げた。
「テーベレプランクトンよ。」

「綺麗。」
砂沙美は息をついた。
「何の為に?」

「医療用に利用出来ないか、研究する為に第221宇宙基地へ持って行く所なの。」
ヴィバリーはトリコーダーを閉じた。
「さて、美星、貴方は完全な健康体見たいね。」

美星は、医療ベッドに座り、笑った。
「それは良かったわ。」
すると、グルグルと音が響き、美星は手で腹を押さえた。
「おや、まあ!ごめんなさい。」
美星は赤面しながら、誤った。
「一寸、お腹が減ったわ。」

砂沙美の後ろに立った、ライカーは笑った。
「謝る必要は無いよ。」

「私も、お腹減った。」
砂沙美もそう付け加え、ライカーを見上げた。
「何か食事を取れないの?」

ライカーは、暫く考えた。
「それは、気が付かなかったな。テンフォワードにお連れしよう。そこなら、お好み
の物があるだろう。」

砂沙美は、人参を隅の方で食べている魎皇鬼を見つめた。
「魎ちゃん!食事に行こうよ!」
魎皇鬼は幸せそうに鳴き声を上げ、砂沙美の頭の上に飛び上がった。

ライカーは美星を探した。美星は自分の近くにある反射するコントロールパネルを
ジッと見つめていた。
「準備は?美星。」

「....まあ、髪を見とかないと!ボサボサだわ!」

「美星?」
ライカーは再び言った。

「何?」
美星は、急いで身なりをキチンとすると口走った。
「おや!ハイ、ハイ、準備出来ましたわ。」

「よろしいですな。お2人さん。」
ライカーはそう言うと、2人と共にドアに向かった。

ヴィバリーは彼らが出て行くのを見届けると、溜息を付き、両手を顔の前で合わせた。
「有難う、神様....」

男性の医療スタッフが、ヴィバリーに歩み寄った。
彼は、手にデータパッドを持っていた。
「ドクター?」

「ウーン?」
ヴィバリーは、目を上げた。
「何、マイケル?」

「あの、先程、ドクターがお見えにならない間に、あの小さな生物のマイクロ細胞
スキャンを行ったのですが。」

「魎皇鬼、そうね?」
ヴィバリーは溜息を付いた。
「それで?」

マイケルはデータパッドをヴィバリーに差し出した。
「貴方に、お見せした方が良いと。」

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[場所:エンタープライズ号・テンフォワード]

二重ドアが開いた。テンフォワードは人で一杯だった。
ライカーは、美星達を群集をかき分けながら、部屋の端にある空いたテーブルに案内
したのだった。

「うわーっ、沢山の人。」
美星は椅子に腰を下ろしながら、言った。

砂沙美は部屋の壁を見つめていた。
「綺麗な眺め!」

ライカーは笑った。
「楽しんでくれ。」
彼は振り返った。
「ああ、ガイナン。探していたんだ。」

「仕事中では無いのね。副長。」
ガイナンは笑った。
「それで、こちらの方々は誰なのかしら?」

「美星と砂沙美だ。」

「ミャー!」

「それに魎皇鬼。」
ライカーは、直ぐに付け加えた。

ガイナンは頷いた。
「ああ、遭難船から見えた3人の方ね。私、この人達に会えないかな、と不思議に思
っていたのよ。」

ライカーは美星と砂沙美の方を振り向いた。
「こちらはガイナン。テンフォワードのホストだ。」

「始めまして。」
美星が言った。すると、彼女の腹が鳴った。
「おや、まあ!なんて恥ずかしい。」

ガイナンは笑った。
「ここに来るのが、正しかった、って言う音ね。何をお出ししましょう?副長?」

ライカーは両手を上げた。
「私はいい。有難う。」

「美星は?」

美星は口を閉ざした。
「ウーン、分からないわ....何が、有りますの?」

「貴方が考え出せる物は、何でも、私は手早く作る事が出来るわ。」
ガイナンは笑って答えた。
「或いは、私にお任せにする、って事も出来るのよ。私は、その人のお好みの料理を
作るコツを心得ているから。」

ライカーは頷いた。
「彼女を信用しろ。彼女はやる。」

「私、ガイナンさんにお任せするわ。」
砂沙美が幸せそうに答えた。

美星は頷いた。
「私もそうしますわ。」

「ミャー?」
魎皇鬼が付け加えた。

ガイナンの目が少しばかり、つり上がった。
「私にお任せ、って事ね。」
そう言うと、振り返り、バーに足を向けた。

すると、ライカーのコムバッジから、データの声が響いた。
「データからライカー副長。」
ライカーは溜息を付いた。
「何だ?データ。」

「副長、美星の船の修理に関する情報が、幾らか集まりました。機関室で、お会い
出来ませんか?」

「今、少々忙しいんだ。データ。」
ライカーは言葉を止めた。
「テンフォワードで会う事は出来ないか?」

「分かりました。副長。」

「データさん、こっちに来るの?」
砂沙美が尋ねた。

「その様だな。」
ライカーは答え、椅子にもたれ掛かった。
「それで、君達は地球から来たのか?」

美星は頷いた。
「ハイ。さて、違うわね。ウーン....ハイであり、いいえ。」
彼女は言葉を止めた。
「私達は、そこで生まれた訳じゃ無いけど、今は、そこに居るのね。つまりその、
ウーン....」

「私達は地球生まれじゃないけど、今は、そこに住んでるの。」
砂沙美が説明した。
「私達、天地お兄ちゃんと一緒に、お兄ちゃんの家に住んでるのよ。」

美星は素早く頷いた。
「そう言う事になりますわね。」

ライカーはゆっくりと頷いた。
「分かった。面白いじゃないか。データがここに来る迄に....その事を私に話して
くれないか?」

「いいわよ!」
砂沙美は、暫く考えた。
「あのね。私が言った様に、私達、天地お兄ちゃんの家に住んでるの。そのお家は、
綺麗な湖の辺にあって、近くには、おじいちゃんの神社があって....」

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[場所:エンタープライズ号・ブリッジ]

ウォーフが報告した。
「艦長、エヴァシュから通信が入っています。」

ピカードは、溜息を付いているトロイをチラッと見つめ、自分も溜息を付いた。
「スクリーンオン。」

星々が映っていたスクリーンに、エヴァシュのマリク副長が映し出された。
「こちらは、エヴァシュの副長マリク。私は、連邦の工作員、美星をただちに、
こちらに引き渡す事を要求する。」

ピカードは、上着を下に引っ張りながら、立ち上がった。
「引渡しを要求されているミス美星は、我々とは関係無い。彼女は連邦のメン
バーでは無く、ゲストとして本艦に乗っている。」

マリクは目を細めた。
「本艦をスパイ並びに破壊工作をする目的で彼女を送り込んだ、と言う事を
否定なさるおつもりですな?」

「言っただろう。美星は連邦の市民では無い、ましてや、艦隊士官でも無い。」

「信じる事は出来ない。」
マリクは不満の声を上げた。

ピカードは少しの間、ためらった。
「副長、美星がどうやって、正確に貴方の艦に乗船したんだ?」

マリクはしかめ面をした。
「分からない。」

「貴方達のセンサーは転送トレースを記録しているか?」

マリクのしかめ面が一層深まった。
「いや。」

「貴方達のシールドが落ちている間に、彼女が乗り込む時間が有ったのか?」
ピカードは尋ねた。

「そうなる前に、彼女はすでに本艦に乗り込んでいた。」
マリクは深く溜息を付いた。
「ピカード艦長、少しばかり、時間をいただけないないだろうか?」

ピカードは、少し頭を傾けた。
「勿論だ。副長。」

ピカードは、ウォーフに音声を切る様に指示し、トロイの方向に振り向いた。
「カウンセラー?」

「彼は、美星が連邦のエージェントでは無い、と考えています。艦長。」
トロイは答えた。
「しかしながら、自分の船に何が起こったか、説明するのに途方に暮れて
います。それに、その事が罰として、はね返って来るのを恐れていて、
平静を保つのに必死です。」

「訳も分からぬ人間に船を無力化されて、自分の経歴にキズを付けられた、
って事ですからね。」
ウォーフがブツブツと言った。

ピカードは頷いた。
「なるほどな。ミスターウォーフ、音声を入れろ。」

暫くして、マリクがスクリーンに現れた。
「ピカード艦長、私は、キラ艦長が....最近の出来事で精神的に参ってしまい、
倒れてしまった事を報告せねばならない。」
マリクは間を置いた。
「彼女が居ないので、私が替わって艦の指揮を取っている。」

「艦長の状況をお悔やみしたい。」
ピカードは正直に答えた。
「我々が、何か手助け出来る事はあるか?」

マリクはためらった。
「知らせるべきだろうか....だが、当面の間、私は本艦の修理に専念しなければ
ならない。」

「修理を手伝えるのなら、修理班を転送できるが。」

マリクは、しかめ面をし、深く考えた。
「その様な事に、私の上官が同意してくれるかどうか、疑わしい。だが、私は、
提供を受け入れるべきだ、と思っている。」

「十分に公正だ。副長。」

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[場所:エンタープライズ号・テンフォワード]

データとガイナンが同時にテーブルにやって来た。
まず、ガイナンが口を開いた。
「あら、データ。何か欲しい物は?」

データは頭を横に振った。
「いや、いい。ガイナン。」

「良くないわね。」
ガイナンはそう言うと、美星の前に湯気の出た液体の入ったボウルを差し出して、
言った。
「これは貴方のマカメリアンムッドフィッシュのスープよ。多くの人に大変旨い
って言われてる事を考慮したのよ。」
次に、小さなボウルを取り出した。
「それで、これが貴方の飲み物よ。」

「有難う。」
美星はボウルを手に取り、一口飲んで、少し頭を下げた。
「お酒!どうして分かったの?」

ガイナンは笑った。
「言ったでしょ。私はコツを心得てる、って。」
ガイナンは砂沙美の方を振り返った。
「これは貴方のよ。」
彼女は砂沙美の前にオレンジ色のソースがかかった白いキューブの載った皿を
差し出した。
「ポーチド・カラマリアンキネプシスのステーキよ。イメホラルフルーツの大皿
も一緒にね。」

砂沙美は深々と頭を下げた。
「本当に有難う。」

魎皇鬼の耳がつり上がった。
「ミャ?ミャ!ミャ!」

ガイナンは笑いを浮かべた。
「貴方を忘れたわね。」
彼女は別の皿をテーブルに差し出した。
「地球の人参ケーキよ。」

「ミャーオ!」
魎皇鬼はテーブルの上で跳ね回り、鳴き声を上げた。

「楽しんでね。」
ガイナンは笑いながら言った。
「後で又、来るわね。」

ライカーはデータの方に振り返った。
データは美星と砂沙美を間に挟み、ライカーと向き合う様にテーブルに座っていた。
「それでデータ、私に言いたい事は何だ?」

「美星の船の修理がほぼ完了しました。副長。」
データが答えた。
「しかしながら、航行システムの修理に必要な3つの素材が複製出来ません。」

ライカーはゆっくりと頷いた。
「それで私を呼び出した訳か。代わりの方法は無いのか?代替の物質さえも?」

「ラフォージ少佐と私とで、ちょうどそうしようと試みていますが、全て失敗して
います。」
データは砂沙美の方に振り返った。彼女はデータをジッと見つめていた。
「私に、何処か可笑しな所でも見付けたか?」

砂沙美は、少しばかり赤面した。
「私、アンドロイドって、見た事無いの。」
彼女は認めた。
「ごめんなさい。」

「謝る必要は無い。」
データは答えた。
「私には感情が無いんだ。それゆえ、君が不注意にも、私の気持ちを傷つける、と
言う事は出来ないんだ。」

「感情が無いの?」
砂沙美は尋ねた。
「えっ....それって酷い。」

データはそれに答えようとしたが、ライカーが割り込んだ。
「データ....他に何かあるのか?」

「それだけでは有りません。副長。」
データは答えた。
「航行システムが動かないのでは、美星の船は輸送手段としては用を成さない、と
言う事を指摘しておかねばなりません。副長。」

ライカーは溜息を付いた。
「さて、我々は彼らを連邦の宇宙域に連れて行かなければならないし、これ以上、
ロミュランとのイザコザも避けなくてはならないしな。この状況で、何をするのか
決めなくてはならなくなるな。」

「私達、魎ちゃんを使えるもん。」
砂沙美は、ステーキの切れ端を口に運びながら、言った。
「ウーン....これ、美味しい。」

データのライカーが彼女の方に振り返った。
「君、何て言ったんだ?」
ライカーが尋ねた。

「私達、魎ちゃんを使えるもん。」
砂沙美は繰り返した。
「だって、魎ちゃん、宇宙船になれるんだもん。」

魎皇鬼は目を上げた。
「ミャ!」

「魎皇鬼がその様な物に変形出来るとは、とても思われない。」
データが答えた。
「その様な能力を持つ種族は確認されていない。」

「魎ちゃんには出来るの。」
砂沙美は答えた。
「だって、魎ちゃん、宇宙海賊なんだもん。ね、美星さん?」

美星は、自分が飲んでいる酒の入ったボウルから、チラッと目を上げた。
「ウン....そうよ。」

砂沙美は笑いを浮かべた。
「ね?」

データは、困った顔をして、ライカーを見つめた。
「宇宙海賊?」

「私に聞くな。」
ライカーは、魎皇鬼を指差して、肩をすくめた。
「魎皇鬼に聞け。」

魎皇鬼は、目を潤ませて、データを見上げた。
「ミャ!」

データはそれに答えようとしたが、ピカード艦長の声が割り込んだ。
「ライカー副長、データ少佐、ただちにブリッジに報告してくれ。」

ライカーはしかめ面をした。
「ライカーです。何です?艦長。」

「付近でタキオン粒子が増加しているのをセンサーが捕えている。」
ピカードは答えた。
「我々のゲストが現れた時と同じ物の様だ。何が起きているのか分かれば、
関連付けが出来るかも知れない。」

「すぐ行きます。」
ライカーは、立ち上がって言った。
「データ、君は先に行ってくれ。我々も後から行く。」

「分かりました。副長。」

砂沙美は手を振った。
「データさん、バイ、バーイ。」

データは立ち止まった。
「君の言った事は、私は理解出来ない。少しの時間でいいから、又、2人で
会いたいものだ。」

「データ。」
ライカーが割り込んだ。
「話をするのは後にしろ。」

「分かりました。」
データは振り向き、ドアに足を向けた。

ライカーは頭を横に振り、テーブルの方に引き返した。
「君には2つ....美星は何処だ?」

砂沙美はバーの方向を指差した。
「あそこだよ。」

ライカーは、群集の中をすり抜けている美星の方に振り返った。
「ウン....ごめんなさい....オッ、許して!私、上手く貴方の方に歩けない
見たい....何でもいいけど。ごめんなさい。ガイナン!ガイナンさん!私....
オッ、許して....お酒貰えますかァ?行くの?」

<第8章終わり。第9章につづく>