美星事件・第9章
「ブリッジの外....」
(Original Title:The Mihoshi Incident-Chapter 9:
Out of Frying Pan....)

出典:Tenchi Muyo Fan Fiction Archive
(http://www.tmffa.com)
作者:Dreak Sharman
訳者:alpha7


ターボリフトのドアが開き、ライカーがブリッジに入って来た。
その右後ろから、彼について、美星、砂沙美、そして、魎皇鬼が入
って来た。

ピカードが振り返った。
「ああ、副長。一寸したミステリーの様だぞ。ミスターデータ、ス
キャンは完了したか?」

「はい、艦長。」
データはウォーフの後ろにある技術セクションに座り、答えた。
「タキオン波は付近から発生したものであり、この付近のタキオン
粒子は飽和状態です。タキオンフィールドの大きさを特定する為、
スキャンの範囲を広げています。」
ピカードはしかめ面をした。
「エヴァシュの状況は?」
ウォーフはディスプレイをチェックした。
「艦長、変化ありません。」
ライカーはホッとした溜息を漏らした。
「小さな親切を神に感謝しないといけませんね。」
ピカードは頷いた。
「副長、なるほどな。」

「艦長。」
データが報告した。
「タキオンフィールドの焦点が特定出来たものと思われます。」
ライカーが指摘した。
「私は、君が発生源は無い、と言うと思っていたんだがな。」

「私もそうしようとしていました。副長。」
データが答えた。
「しかし、フィールドの発生源....それは今だ不明ですが....フィ
ールドの焦点ではありません。そして、発生源は付近に・・・」
ピカードが割り込んだ。
「焦点は何処なんだ?少佐。」
データは振り返って答えた。
「焦点はエンタープライズのブリッジと思われます。」

「何だって?!」
ライカーが叫んだ。
「確かなのか?」
データは頷いて答えた。
「数値を確認しました。ブリッジのタキオン粒子の密度は船外より、
1263.495%高くなっています。」
ライカーが尋ねた。
「そんなに高くなってクルーに影響はないのか?」

「生命体への高密度タキオンの影響は調べられた事がありません。
副長。」

「発生源に関する情報はまだ無いのか?少佐。」
ピカードが尋ねた。
「有りません。艦長。」

すると、トロイがゆっくりと立ち上がった。
「艦長・・・。」
ピカードは振り返った。
「何だ?カウンセラー。」

「この現象には明らかに知的生命体が絡んでいます。それを感じる
んです。」
トロイは神経を集中し、額にシワを寄せた。
「その生命体は....殆ど....ほくそ笑んでいる、と思われます。」

「ほくそ笑んでいる、って?」
ピカードは自分の顎を擦って言った。
「何で、ほくそ笑んでいるんだ?」

「分かりません。」
トロイは答えた。
「でも、何かに付いて、明らかに満足しています。」

ライカーがピカードに歩み寄った。
「艦長、Qがこんな事をしでかしてる、なんて考えてませんよね?」
ピカードはしかめ面をした。
「こんな離れ業をやってのけるのは、あいつが好きそうな事だがな。
だが、もし、Qだったとして、どうして自ら姿を見せないんだ?」

「多分、私達がドタバタしてるのを見たいんじゃないですか。」
ライカーは溜息をついた。
「それなら、ここで起こった事の説明も出来ますしね。」

ウォーフがピカードの方向に振り返った。
「艦長、通信が入っています。」

「誰からだ?大尉。」
ピカードは尋ねた。
「発信源不明です。」
ウォーフは不満に満ちた声で言った。

ピカードは混乱した様子のライカーと場所を入れ替わって言った。
「スクリーンオン。」

メインスクリーンの星々が消え、どこかの研究室が映し出された。
スクリーンの中央から、たてがみの様な赤毛の少女が高笑いしてい
たのだった。
「ハッ!ハッハ!これ、動くとは知ってたけどさぁ!」

砂沙美は息を呑んだ。
「鷲羽お姉ちゃん!どうやって、私達を見つけたの?」

鷲羽は笑った。
「だって、私、美星殿のキューブのシグナルを追跡したのよ。勿論
の事だけど。」
彼女は手を差しのべると、どこからか装置が現れ、それと同時に自分
の回りにあった装置が姿を消した。
「アッ、それが最善の方法だったしね。」

ライカーは目をパチクリさせ、砂沙美の方を振り返った。
「鷲羽?さっき、君が言っていた鷲羽と同一人物か?」

「そうよ。」
砂沙美はスクリーンを指さし、答えた。
「あれは鷲羽お姉ちゃん。私と美星さんと一緒に天地お兄ちゃんの
家に住んでるの。それと、私のお姉様と魎呼お姉ちゃん。」

「ミャ!」

「それに、勿論、魎ちゃんも。」
砂沙美は笑ってつけ加えた。

データは立ち上がった。
「失礼だが、何故、シグナルが分かったのか?我々の調査では、
ミス美星のキューブから、如何なるシグナルも探知出来なかった
のだが。」

「さあ、誰もがシグナルを探知出来るとは思えないしねぇ。」
鷲羽は小言を言った。
「知的生命体が少しでも犯罪をおかせば、どんな警察でも知ろう
とするでしょ。いいえ、ギャラクシーポリスのシグナル発信器は
必要ね。私には必要ないけど。宇宙でもっとも偉大な科学者にも
ね。」
鷲羽は満面の笑みを浮かべた。
「ああ、それって、私の事よ。」
更に、満面の笑みを浮かべて言った。
「それに、私が可愛い、って事の障害にはならないけどさぁ。」

ライカーは溜息を付きながら、自分の席についた。
「あんな事がズケズケと言えるとは考えられないな。」

ピカードは長い沈黙から平静を取り戻した。
「私はジャン・リュック・ピカード、連邦宇宙艦エンタープライズ
の艦長だ。」
鷲羽は目をパチクリさせ、目を輝かせた。
「私は鷲羽。会えて嬉しいわ。艦長。」
ピカードは笑って言った。
「同じように、君の目的を聞いても構わないかな?鷲羽。」

「ウーン....多分ね....。でも、私の事は....」
鷲羽はピカードに茶目っ気タップリな笑いを投げかけた。
「鷲羽ちゃんと呼んで!」

ピカードは誰かのクスクス笑う声に振り返った。
トロイが手で顔を覆い、笑いを隠していた。
メインスクリーンに再度振り返ると、彼は咳払いをした。
「分かった....鷲羽ちゃん....君の目的が何か、教えてくれない
かな?」

「さて、私、美星殿と砂沙美ちゃんを連れ戻しに来たのよ。」
鷲羽は答えた。
「その前に....これは言っとかないとねぇ....この前に一寸した
不運な出来事が有ったでしょ。私、政略上の何かがあると思って
るのよ。」

「君の言っている事が理解出来ないのだがな。」
ピカードは慎重に答えた。

鷲羽は溜息を付いた。
「分かったわ....こう言い換えましょ....美星殿は2時間前に乗船
した。そうね?」

「その通りだ。」
ピカードは答えた。

「何か有ったわよねぇ。美星殿の回りに’普通でない出来事’は有
ったわよね?」

「ああ。」
ピカードはゆっくりと頷いた。
「君の指摘は的を射ていると思う。」

「そう思っていたのよねぇ。」
鷲羽は答えた。
「美星殿は....」

すると、スクリーンの視界の外の何処からか、怒りに満ちた女性の
声が割り込んだ。
「コラァ!鷲羽!こいつから私を降ろせ!」

鷲羽は溜息を付いた。
「一寸、ごめんなさい。艦長。」
彼女はスクリーンの視界から出たが、横着な声は聞こえていた。
「一寸ぉ、魎呼ちゃん。あんた、そんな汚い言葉吐いて、苛ついて
るのぉ?」

「私は、こいつから降ろせ、と言ったんだ!」

「ああ....私が考えてたのはね....ほらぁ、一寸、こんなのに耐え
られるかなぁ....」

「何をお前....?いや、私が言ったのは....アッ!ンンンン!ンン
ンン!」

「言ったでしょ。自分の母親に口答え出来ないってね。魎呼。正直
言うと、私、あんたの一寸した汚い言葉を吐く癖、知らなかったの
よねぇ。」
鷲羽はスクリーンの視界に戻った。
「ごめんなさぁい。艦長。子供がどんなものか、貴方もご存じよねぇ。
若い時に作法を教えとか無かったら、大きくなって、トイレを吹き
飛ばしたりして、抑制が効かなくなっちゃうから。」

ピカードは自分の口を開き、そして、閉じた。それから、咳払いを
した。
「あ....ああ....そ、そうだな。」

砂沙美はメインスクリーンに歩み寄った。
「鷲羽お姉ちゃん。私達をお家に返してくれるの?」

「そうよ。砂沙美ちゃん。」
鷲羽は確信に満ちて、答えた。
「私が出来なかったら、津名魅が私を許してくれないだろうしねぇ。
それに、阿重霞殿と暮らす事も出来なくなっちゃうしね。」

「我々の調査では、タキオン粒子の増加の原因は君にあるのだ、思
うのだが?」
ピカードは尋ねた。

鷲羽は頷いた。
「そうよ。私、自分の次元間分子スキャナーを改造して、今、私達
と貴方達との次元間の道を開いたの。タキオン粒子の増加は、私が
美星殿のキューブを貴方達の次元への道の頼りとして使った為なの
よ。」

ピカードは目を上げた。
「君は別の次元への道を作り出す事が出来るのか?」

「勿論。」
鷲羽はニヤニヤ笑った。
「もし、興味がお有りなら、その件に付いての詳細をお教え出来る
わ。」

ピカードは溜息をついた。
「見かけ上、とても安全そうだがな。感謝するよ。」

「単なる提案よ。艦長。」
鷲羽は答えた。
「それで、美星殿、砂沙美ちゃん、準備はいい?」

「勿論ですわ!」
美星は口走った。
「これって、とっても良い事よねぇ....戻ったら、昼メロ見る時間
が取れるし、次のパトロールの為に船を修理出来るし、それに、砂
沙美ちゃんが、美味しい朝食を作れるし....」

「一寸待って。」
鷲羽が割り込んだ。
「何って言ったの?」

「何?私、何て言ったか、って?」
美星は息を切らした。
「砂沙美ちゃんが朝食を作る事について?えっと、砂沙美ちゃんが
望んでなかったら、そうしなくてもいいわねぇ。でも、砂沙美ちゃん
はとっても得意だし....」

「それじゃなくて。鈍いわねぇ。」
鷲羽は早口で言った。
「その前に言った事よ。」

「おっ!」
美星は笑いを浮かべた。
「私の船の修理についての事ですかぁ?」

「そうよ。それよ。どうして、船の修理が必要なの?」

「勿論、ここに来たときにダメージを受けたからですわ。」
美星は言った。
「どうして、それが修理に必要なんですかぁ?」

「私の頭の中で2ダース分位の原因が浮かんでるからね。」
鷲羽は言い返した。
「正確には、何がダメージを受けたの?」

美星は口をむっとへの字に結んだ。
「ウーン.....エンジンですわ。」

「思った通りね。」
鷲羽はうめき声をあげた。
「エンジンのどの部分?」

「ウーン....船を動かす部分ですかぁ?」

スクリーンの鷲羽は、椅子に腰を下ろした。

データが立ち上がり、スクリーンに近づいた。
「ミス鷲羽、私が美星の船のダメージについて、詳細な情報を貴方
に提供できると思うのだが。」

鷲羽は椅子から飛び上がった。
「ああ、それよ。お願いしたいわ。」

「我々の調査では、主要反応チェンバー、磁気ボトリングシステム
が作動不能になっている。」
データは答えた。
「修理を完了させるのに必要な素材が我々には無い。その上、ダメ
ージを受けた航行コンピューターにコネクトする第三のシステムあ
る。だが、我々はそれが何か、特定出来ていない。」

鷲羽の映像が消え、円筒状の物体の略図がスクリーンに映し出された。
「貴方が言ってるのは、これの事かしら?」

データは0.5秒程、映像見ると、頷いた。
「そうだ。」

鷲羽の顔が再び、スクリーンに現れた。
彼女の表情は暗いものだった。
「私、この事を恐れてたのよねぇ。」

「何か問題でも有るのか?鷲羽。」
ピカードは尋ねた。

「ええ。」
鷲羽はゆっくりと答えた。
「その第三のシステムはハイパーウェーブ増殖炉なの。それが無い
と、ナビゲーション無しって事だから、美星殿の船はこちらの次元
への道に入る事さえ出来ないわね。勿論、エンジンが動けば、って
仮定すれば、だけど。」

美星は目をパチクリとさせた。
「ウーン....それって、良くない事、ですかぁ?」

鷲羽は重々しく頷いた。
「ええ、とってもね。増殖炉無しだったら、貴方達を戻す手段は無
いって事なのよ。」

(第9章終わり)